「ずっと好きよ。」

 

グリーンのショートカットの髪、ブルーの瞳と唇。白い素肌のスレンダーな身体に、真っ赤に鮮やかなボディースーツ。黒いオーバードレスを着たその少女は、何気なくそう言った。

キリマンジャロの嵐。クアトロ=バジーナの百式の落下を助ける為、共にウェイブライダーで夜空から落ちてきたカミーユ=ビダン。浴槽でくつろぐ時、彼女にカミーユの存在が甦った。基地に潜入した彼に近づき、警備員のように強面な声を作って声を掛けた。

「止まれ!怪しい奴、動くと撃つっ!」

ビクッとして驚き、振り向くカミーユ。右手で銃の形を作り、撃つマネをした。

「バーン!ハハハ!ハハハ!ウフフ・・・」

彼女と知って喜ぶカミーユ。彼女はより、その再会を喜んで飛びついて行った。

「必ず会いに来てくれると、信じていたわ。」

通路では、他の兵士たちに見つかってしまう。彼女は、カミーユを自室に招き入れた。ジュースを取ろうと、冷蔵庫のドアを開ける。隠された拳銃が、「殺せ」と命じる。気力を振り絞って、逆らった。

「でも変だ。さっきまでカミーユのこと、忘れてたんだよ?」

カミーユは渡された缶ジュースを飲みながら、優しい眼で見つめている。

「僕のこと、嫌いになったんだろ?」

カミーユの問いに弱々しく笑いながら、彼女は言った。

 

「ずっと好きよ。」

 

それは、カミーユ=ビダンに言った言葉である。

薬物などにより、改造された「強化人間」。記憶を消去されてしまった彼女には、親も兄弟も、友人と呼べる人もいない。カミーユ=ビダン。彼だけが、「外の世界」から手を差し伸べてきた唯一の人だった。彼女の苦しみを感じ、救おうとしてくれた人。会って間もないのに、自分の心の苦しみを打ち明けてくれた人。

彼女にとって、「好き」と言える人は彼しかいなかったのだ。そして今までも、彼しかいなかったのだ。

「一緒に逃げよう!」

カミーユの導きに、身を任せた。極寒の高原の眼下に、広がる白い雲々。

「お空のじゅうたん…温ったかそう。」

彼女は、身体を寄せる。カミーユの心は、温かかった。

しかしカゴの中から飛び出しても、彼女の未来にはこの寒々とした雪原広がるだけであった。全てわかっていながら、一時カミーユの心に身を委ねた。

 

香港での小さなデート。二人で見た雲のじゅうたん。カミーユとのキス。

彼女の美しい記憶は、これだけだった。

 

「恋人たち」には、「別人のフォウ」が出ていた。その子は、ファ=ユイリィやサラ=ザビアロフの様に、戦争に巻き込まれた「ただの女の子」であった。自分の家庭の事情などを話しながら近づいてくる、カミーユの名が「私も好きだ」と言った。

「彼と宇宙(そら)に行きたい」

という願いと共に、スードリーのブースターで宇宙に帰そうとした。駆けつけたベン=ウッダーは、彼女のこめかみに銃口を突け、付け引き金を引いた。

「こうやっても、強化人間は動くのかな?!」

ベン=ウッダーは、彼女を殺した。

大破したスードリーから、彼女は海へ落ちていく。無言の肉体が、ブースターに乗るカミーユのMk−�Uを見送っていた。頭部を打ち抜かれ、高高度からの落下。間違いなく生きてはいない。彼女の魂は、ロザミア=バダムと共に宇宙でカミーユと再会するのだろう。キリマンジャロでの再会と死。アムロ=レイにララァ=スンとの悲劇を甦らせ、クワトロにシャア=アズナブルとして決起させた出来事である。しかし『新訳』では、彼らはそれ以前にカミーユを支える強い存在として時代を動かすのだろう。

もし姿を現すのであれば、彼女は「綾波レイ」になってしまう。それを見てしまうのは、僕にとってはとても恐ろしい事である。

 

はかなげでたおやかで美しくて愛らしいフォウの声。

うつろで可憐で愛しいフォウの面影。

僕の「フォウ=ムラサメ」は、彼女だけである。

ベン=ウッダーは、その「心のフォウ」を殺そうとしたのだ。

 

香港での小さなデート。二人で見た雲のじゅうたん。カミーユとのキス。

僕のフォウの記憶は、これだけである。

 

「ずっと好きよ。」

 

それは、カミーユ=ビダンに言った言葉である。

いつまでも僕の心に甦る、「フォウ=ムラサメ」の永遠の記憶である。

 
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