第6話『ハニーちゃんやーい!』

 

《前回までのあらすじ》

「ボクは、王子様になる!」「天上ウテナ」は、密かな思い出と決意を胸に名門鳳学園中等部に入学した。男子の制服を着る変わった女の子だった。ある日彼女は生徒会が行っている『決闘ゲーム』に巻き込まれ、『薔薇の花嫁』と呼ばれる「姫宮アンシー」を守る為に決闘場で闘う事になってしまう。だがその類まれな能力で彼女は決闘を挑んでくる生徒会メンバー達、「桐生冬芽」「西園寺恭一」「有栖川樹璃」「薫幹」「桐生七美」の挑戦をことごとく退けてきた。『決闘の勝者』には、『世界を革命する力』が与えられるといわれているが、果たして・・・?

最近は、その挑戦者が意外に人物になってきていた。「鳳香苗」「薫梢」「高槻枝織」「石蕗美蔓」「篠原若葉」「苑田茎子」・・・。彼らの胸には、『黒薔薇』がつけられていた。更にその陰で、謎の者達が暗躍をしていた。決闘に関わった生徒達を監禁し、尋問を掛け、他の生徒達にも暴行を加えていた。彼らもまた『世界を革命する力』を求めてやってきたのだった。転校生として、謎の女生徒2人が侵入してきた。これを受け入れた鳳学園理事長代理である「鳳暁生」は、対抗手段としてある一手を講じた。

次の日、その女の子は鳳学園に現れた。彼女の名は、「如月ハニー」。冬芽は彼女と謎の転校生2人の関係を探るべく、舞踏会を開催する事にした。華やかな衣装で舞踏会の注目を集めたハニー。しかし「神崎姫子」と「神武子」の登場と共に会の雰囲気も壊されてしまった。彼らに異常な危機感を抱いた西園寺は、真剣で切りかかるが巨体の武子の動作一つで会場の外まで吹き飛ばされてしまった!ハニーは、ウテナ達と同じ東館の女子寮に入室した。続いて鳳学園では「アルフォンヌ先生」「常似ミハル先生」の恩師達も登場(笑)!そして西園寺いるの道場では、謎の道場破りが彼に立合いを挑んできた!一方、お昼休みに中庭で楽しく昼食を採るウテナ達。突然、ハニーが理事長室に呼び出され、ウテナとアンシーもついて行く。理事長室では、姫子と武子が、暁生に『決闘ゲーム』参加の承認を迫っていた。暁生は、彼女達に研究室の「御影草時」を訪ねる様にと、『薔薇の刻印』の入ったメッセージカードを渡す。同じ部屋でウテナ達とバッタリ遭遇するが、今回は何も起きなかった。

教室に戻ったハニーは、授業に退屈して学園脱走を企てる。ミハルとアルフォンヌの妨害をかい潜って、大胆にも学校を出てしまった。一方姫子と武子達は、暁生に指定された場所に来ていた。遺体焼却場で、彼女達は『黒薔薇の刻印』の入った指輪を手に入れていた。学校に戻ったハニーは、ウテナとバスケットボールで対決。無敵だったウテナを圧倒する。下校しようとする時、再び姫子達と出くわすが、何事もなく去ろうとした武子が落した「黒薔薇の刻印」のは行った指輪を、若葉は何気なく拾って返してしまう。校門を出時、ハニーにまた来訪者があった。ハニーの恋人?

《王子と魔女の物語》

〈ハニー〉「青児さん!」

〈青児〉「やあハニー、元気そうだね。」

青児は、ハニーの顔を見て微笑んだ。

〈ハニー〉「ええ。…ごめんなさい、急に頼み事しちゃって。」

ハニーも青児と再会できた事が嬉しそうだった。眼をクリクリとして、やや上目遣いの可愛い表情であった。

〈青児〉「いやぁ、ハニーの頼み事なら何でも来いだよ。…さっそく言われた事を調べてみたんだ。」

青児の顔はまじめになった。

〈青児〉「天上ウテナ桐生冬芽七実西園寺恭一有栖川樹璃薫幹…彼ら生徒会に関わるメンバーに関しては、君の報告してくれた住所等から身元を調べたが、全てその生い立ちがつかめた。」

ハニーの顔もまじめになった。青児は腕組みをして話しを続けた。

〈青児〉「…しかし鳳暁生姫宮アンシー、この二人に関しては、その過去の足取りがつかめなかった。」

〈ハニー〉「…やはりね。」

ハニーも腕を組んだ。

〈青児〉「だが彼らの住んでいたという地域には、ある伝説が残っているんだよ。」

 

当時その村は、とても貧しい人々の集落だったらしい。

春夏は強い日差しか、豪雨という気まぐれな空、冬は厳しい寒気に襲われ、

作物もろくに育たないやせた土地。

しかし統治者の取りたては無情なもので、村人達は飢えと屈辱に耐える日々を送っていた。

彼らには天の神に救いを祈る事しか術がなかった。

しかし彼らの祈りが届いたのか、ある日その村に不思議な力を持つ

王子様が訪れた。

王子様は村人の暮らしの貧しさを嘆き、

その力で彼らに豊かな作物を、暖かな日差しの輝きと恵みの雨…

幸福な生活を彼らに与えたのだった。

奇跡を与えてくれた王子様に、

村人達は心から感謝の涙を流し、彼に永遠の友情を誓って慕った。

しかし甘い夢を見てしまった村人達は、

日々働く気力を無くし、耐える心を忘れていった。

何か悩み事があれば、その救いを王子様に求めるようになった。

王子様は村人の為によかれと、我が身を削ってその力を使っていった。

だが王子様に助けを求める人々は、後を絶たなかった。

王子様は日に日に弱り始め、

とうとう自らの力で立ち上がる事さえ出来なくなってしまった。

だが王子様に助けを求める人々は、後を絶たなかった。

王子様にはがいた。

村人達に救いの手を差し伸べるを、そのは黙って見守っていたが、

日々その力を無くしていく彼を見かねて、を止めようとした。

王子様は最後の力まで使うつもりだった。

の様子を村人に話し、もう願い事を止めてくれる様哀願した。

だが王子様に助けを求める人々は、後を絶たなかった。

このままではは死んでしまう。

は決心した。

は自らの力で、王子様の力を封じ込めた。

王子様の命は救われた。

しかしは、それに変わる重い代償を負わなければならなかった。

村には再び貧しい日々が戻ってきた。

王子様を封じ込めたを、村人は恨んだ。

魔女と呼んだ。

以来は永遠に憎しみの刃を身に受け続け、

魔女と呼ばれる存在となったのであった。

 

〈ハニー〉「…なんだか切ないお話しね。」

〈青児〉「あんまりにも作り話みたいだったからどうかと思ったんだけど、ちょっと気になったんだ。」

〈ハニー〉「王子と…魔女の伝説…か。」

〈青児〉「後、神崎姫子と郷武子。この二人も報告してくれればすぐに調べてみるよ。」

〈ハニー〉「…いいえ、あの二人は見当がついているわ。」

 

《恋の戦士》

ウテナとアンシーは、若葉と別れて東館に戻ってきた。入り口のドアを開けて中に入ると、玄関に見慣れないスニーカーと草履があった。

〈ウテナ〉「あれっ?来客かなぁ。」

〈アンシー〉「誰でしょうね。」

二階に上がって自分達の部屋に入った。

〈ウテナ〉「あれーっ、ボク達の方じゃないや。じゃハニーさんの方かな?」

ウテナとアンシーは、とりあえず鞄を置いて制服を着替え始めた。

〈ウテナ〉「何か、ハニーさんが来てから、色んな人が学園に来るね。まあにぎやかな人ばかりで面白いけど…。」

〈ハニー〉「いゃあ〜ん!」

〈ウテナ〉「!な、なんだ?!」

隣のハニーの部屋から声がした。ウテナは脱ぎかけた制服を着直して、ハニーの部屋に走った。

〈ウテナ〉「ハニーさん、どうしたの」ドアを開けて部屋へ飛び込んだ。

〈ハニー〉「アッ!」

見るとハニーの身体に二人、誰かが抱き付いている!床に押し倒されて襲われている!

〈ウテナ〉「こーのー!ハニーさんに何するんだ」

ウテナは、拳を振りかぶって飛び掛かった!

〈ハニー〉「う、ウテナちゃん、だめ!ち、違うのよ!」

ハニーは、慌てて手を上げてウテナを止めた。

〈ウテナ〉「へっ?」

ウテナは、飛び掛かった姿勢のまま転びそうになった。

〈ハニー〉「…二人とも私の知り合いなの…」

ハニーはとても恥ずかしそうだった。頬がピンクに染まっている。

順平〉「ああ、愛しのハニー御姉様。お久しゅうございます。…この感触がたまらない!」

団兵衛〉「ああ〜ハニーちゃ〜ん。これじゃ、これじゃ、この柔らかい肌触りじゃあ!グッフッフ!」

二人ともウテナの存在に気付く事なく、ハニーのバストに頬擦りをしている。背が低く、抱き付くとちょうど彼女のバストの辺りに顔が来るのである。

〈ハニー〉「あ…あの、おじ様、順平君、お友達が来ているから…」

二人とも止める気配がない。更に調子に乗って自分達の顔をグリグリと押し付ける。

〈ハニー〉「アア〜ン!もう…」

ハニーは思わず色っぽい声を上げる…がすぐに表情がコワくなった。

〈ハニー〉「エエイ!えーかげんにせんかい!!」

二人のベルトと帯を掴んで、一気に巴投げのように頭上へ投げ飛ばした。

〈団兵衛・順平〉「あら〜!」

二人は一旦床に叩き付けられてバウンドし、壁に激突した。揃って眼を回しながら、壁にもたれかかった格好になった。

〈ウテナ〉「…ハニーさんって、やっぱり…」

ウテナもハニーの本性が判ってきた。アンシーも呆気に取られている。

〈ハニー〉「あら、私とした事が。」

ハニーは照れ隠しに可愛く舌を出してポーズをとった。しかし、もう猫を被っている意味がない様である。

〈ハニー〉「紹介するわ。私がお世話になっている早見一家の団兵衛おじさん、そして順平君よ。」

何故か五人共、かしこまって正座をしている。

〈順平〉「あ、あのー、よろしくお願いいたします。」

順平は小学校五年生である。しかしキレイなお姉さん二人を前にして照れるどころか、ウキウキしている様子であった。片ヒザを立てて、どこからか手品の様に薔薇の花を2本取り出した。

〈順平〉「ああ、恋の戦士の心をときめかせるお姉様方との出会い!この瞬間、順平は心奪われてしまいました。」

ササッとウテナとアンシーの前に中腰のまま歩み寄ると、一本ずつ彼女達に薔薇の花を渡した。

〈ウテナ〉「…こりゃあどうも…」

〈アンシー〉「ありがとう。」

〈順平〉「…これは、お近付きの印。是非後で僕とデートを…」

〈ハニー〉「順平君!」

背後からハニーの声が順平を襲った。

〈順平〉「はいっ!」

急にシャキットなった順平は、ササッと元の場所へ戻った。

〈ウテナ〉「…なんか小さい時の冬芽を見ているみたいだ。」

(〈七実〉「お兄様は、こんなに下品じゃないわよ!」)

〈団兵衛〉「いゃあ!ワシがかの早見一家の主、早見団兵衛じゃ!」

団兵衛は、気合を入れて片足を上げて立ち上がった。

〈団兵衛〉「ワシが来たからには、もう大丈夫じゃこう見えても武芸百般なんでもござれ!どんな極悪非道な輩が現れようとも、このワシが成敗してくれるわぁ〜っ!」

和服が普段着の団兵衛は、どこからともなく取り出した真剣を居合い抜きし、僅か1コマで忍者の格好になり手裏剣を投げたりした。

〈ウテナ〉「…どうも。天上ウテナです。」

ウテナは、かなり気分が引いてる様子で挨拶した。

〈アンシー〉「どうも始めまして、姫宮アンシーです。」

アンシーはいつもどおり折り目正しく礼をした。

〈団兵衛〉「おお、素晴らしい!今時の若造には珍しく何と格式高い振る舞いである事か!」

団兵衛はアンシーに感動した様子である。目にうっすらと涙を浮かべ、大きくなった瞳には星まで見えている。

〈団兵衛〉「おお!これぞ高度成長期の中で、西洋文化に毒された大和撫子が失ってしまった日本の美!あんたのような娘さんが、まだこの国におったとは!ワシは嬉しい、嬉しいぞ〜っ!」

団兵衛は、本当に感動しているらしい。

〈アンシー〉「どもども。」

アンシーは微笑んだ。ウテナはその隣で、「なんだこのジジィは」と言う眼をしていた。

〈団兵衛〉「…しかしきょうびの女学生は、発育がいいのう。どれどれ…。」

団兵衛は本能のまま、よだれを垂らしながらアンシーに迫った。構えて動かす手の指が非常にいやらしい。アンシーもさすがに団兵衛が何をしようとしているか判り、やや腰を浮かして後退った。

〈団兵衛〉「とりやあ〜っ!」

団兵衛は、アンシーに飛び掛かった!

どかん!

横に座っていたウテナが、冷静にパンチを振り下ろした。団兵衛は、ボールのように顔から床に叩き付けられた。

〈ウテナ〉「何するんだ、この色ボケジジィ!」

団兵衛は、ウテナの一撃でしばらく痙攣を起こしていた。しかし素早く飛び起きると、

〈団兵衛〉「お、おのれ!この西洋かぶれのコギャル娘(死語)!」

空手の構えで立ち上がった。

〈ウテナ〉「だ、誰がコギャル娘(死語)だっ!」

ウテナも中腰のままだが構える。

〈団兵衛〉「早見家秘伝の武芸奥義で、貴様のその腐ったアーパー頭を叩き直してくれるわぁ〜っ!」

〈ウテナ〉「あ、アーパー頭ぁ?なんだそりゃあ。」

〈団兵衛〉「うりゃあああ〜!」

団兵衛は、気合と共に正拳突きをウテナに叩き込んだ!…と思ったが手が届かなかった。それよりも早くウテナの手が伸びて、団兵衛の顔を押さえていた。リーチの差で、団兵衛の突きはウテナに届かなかった。

〈団兵衛〉「お、おのれ卑怯な〜っ」

手で押さえられた顔を横に向けたまま、団兵衛はパンチやキックを繰り出すが、空しく空振りするだけである。

〈ウテナ〉「…」

ウテナは冷静に、空いている右腕でロングフックを叩き込んだ。

〈団兵衛〉「どうぉわああっ!」

哀れ団兵衛は床に伸びてしまった。

〈ハニー〉「…二人共、もう私の居場所を嗅ぎ付けちゃったのねー。」

ハニーはため息をついていった。

〈順平〉「そんなぁー、だって朝起きたらハニーお姉様居ないんだもん。ちょっと留守にします≠チて置き手紙されたって、僕はお姉様の事が心配で心配で…。」

順平は手をついてうなだれながら、ポロポロと涙を流し始めた。

〈順平〉「調べてみたら鳳学園って所に転校したって言うし、僕はこのままもうお姉様に会えなくなってしまうんだと思って、居ても立っても居られなくなって…うわあ〜ん!」

とうとう泣き出してしまった。床に伏せて、拳で床をドンドン叩いている。

〈ハニー〉「…ごめんなさい、順平ちゃん。これには色々と事情があるのよ。後でみんなにはちゃんと話すつもりで居たの。」

ハニーは順平の側に寄った。

〈ハニー〉「ほら順平ちゃん、男の子でしょ?お姉さん達も見てるんだから、もう泣かないで…」

〈順平〉「うえ〜ん!」

順平は側に来たハニーのひざの上でまた泣き出した。ハニーも母性本能をくすぐられるのか、しばらくこのまま泣かしてやろうと思った。順平を見守る目が優しかった。ウテナもアンシーも訳が判らなかったが、順平に同情した。

〈順平〉「…」

すぐすると順平は泣き止んだ。顔を上げると何故かニヤニヤ笑っている。

〈順平〉「へへ、チャーンス!」

順平の左手が、素早くハニーの胸の膨らみを掴んだ!

〈ハニー〉「キャアッ!」

順平は明らかにこの機会を狙っていた。更にハニーの胸を手で揉んだ。

〈ハニー〉「イャアアン!」

ハニーは色っぱい声を上げた…が、

〈ハニー〉「いいかげんにしなさい!」

すぐに順平を張り倒した。哀れ順平も床に伸びてしまった。

《大宴会じゃあ〜!》

〈ウテナ〉「…賑やかになったのはいいけど、いいのかなぁー生徒じゃない人寮に入れちゃって…。」

ウテナは、床で伸びている二人を見ながら言った。

〈アンシー〉「あら、いいじゃありませんか。」

〈ウテナ〉「えっ!…君がそんな事言うの?」

アンシーは。理事長代理の妹である。

〈アンシー〉「…いけないでしょうか?」

アンシーには自覚がない様であった。

〈ウテナ〉「…ま、いっか。バレた時はバレた時か。」

ウテナは頭を掻きつつため息をついた。

〈団兵衛〉「おお、なかなか話の判るコギャル娘じゃ!」

〈ウテナ〉「コギャル娘じゃないってーの!」

ムクリと団兵衛と順平はもとに戻っていた。

〈順平〉「ということで、よろしくお願いしマース!」

最初から二人は、この寮に居着くつもりだった様である。

〈ハニー〉「…」

ハニーの顔は、明らかに「ムッ」としていた。

〈団兵衛〉「いやぁーめでたい!ではこの新しい門出を祝して、今晩は宴会じゃあー」

団兵衛は、テーブルの上に立って上機嫌になった。

〈順平〉「イエーイ!」

〈アンシー〉「イエーイ!」

〈ウテナ〉「…姫宮…」

ウテナの眼は隣で「…おいおい」と言っていた。団兵衛と順平は、そそくさと自分達の持ってきた巨大なナップザックから、スナックやらおつまみやらジュース、一升瓶などをでしてテーブルにセッティングしていった。

…最初から、この二人はここで宴会をするつもりだったのだった。

天井にはカラーテープとか、折り紙のチェーンとかまで吊るされ、瞬く間にハニーの部屋は飾り付けされていった。

〈団兵衛〉「エーそれではこの私、早見団兵衛が乾杯の音頭を取らせていただきます!」

〈順平〉「イエーイ!」

〈アンシー〉「イエーイ!」

〈ウテナ〉「…」

〈ハニー〉「…」

アンシーは、何故かこの二人にペースが合っている。

〈団兵衛〉「我々早見一家(ハニーも何故か早見一家扱い)と、姫宮アンシー殿、天上ウテナ殿との出会いを祝して、カンパーイ」

〈その他一同〉「カンパーイ!」

団兵衛はマス酒で、他の四人はジュースで乾杯した。ウテナももうヤケクソであった。

一気にマス酒を飲み干した団兵衛は、すぐに御機嫌になった。

〈団兵衛〉「ほら!お嬢ちゃん達も飲め〜っ!」

団兵衛は、一升瓶を抱えてウテナに差し出した。

〈ウテナ〉「な、ボクは未成年ですよ!」

ウテナは手を振って断った。

〈団兵衛〉「何じゃ、セコイ事を言うな。ささ、アンシー殿!」

団兵衛は、アンシーに日本酒を勧めた。

〈アンシー〉「ではいただきます。」

アンシーは空いたコップを手に持った。

〈ウテナ〉「ひっ、姫宮」

団兵衛の注いだ日本酒を、アンシーはクイッと一気に飲んでしまった。

〈団兵衛〉「おお!なんと言う素晴らしい飲みっぷり!…ささ、もう一杯どうじゃ?」

〈アンシー〉「どもども…」

アンシーは平気な顔をしてコップを差し出した。団兵衛は、コップに並々と日本酒を注いだ。

〈ウテナ〉「…姫宮、大丈夫?」

ウテナは、アンシーが心配になってきた。

〈アンシー〉「アラー、ウテナ様ったら。私達ぐらいになれば、もう色々と大人じゃないですか。」

アンシーはケロリとして、コップの酒を飲み始めた。

〈ハニー〉「…おじ様、私も付き合うわ。」

ハニーもコップを持ってきた。

〈団兵衛〉「イョッ!さすがはハニーちゃん!そうでなくてはのぉ〜!」

〈ウテナ〉「…じゃあ、ボクもチョットだけ…」

ウテナもオズオズとコップを出した。

月が〜出た出た〜月が〜出た、

あ、ヨイヨイ!…

宴会の盛り上がりは最高調に達していた。テーブルの上では、団兵衛と順平が腹踊りをしている。何時の間にか部屋に来たチュチュも、アルコールでレロレロになり二人の間でクルクル回っている。ハニーは、どこにあったのか小太鼓を叩いて音頭を取り、ウテナもアンシーも手拍子で歌を歌っている。

突如、廊下の電話が鳴り始めた。

〈アンシー〉「あ、私が出ます。」

アンシーは席を立って廊下に出ていった。しばらくすると、部屋に戻ってきた。

〈アンシー〉「ウテナ様すいません。私、今からちょっとお兄様の所へ行ってきます。」

〈ウテナ〉「えっ?…ああいいよ。お兄さんによろしく。」

昨日もこんな事あったなあと思いつつ、ウテナは別にアンシーに理由を聞こうとはしなかった。

〈アンシー〉「すいません。では、ごゆっくり…」

アンシーはハニー達に頭を下げると、部屋の扉を開けた。

〈団兵衛〉「コレ、アンシ〜ちゃ〜ん!どこ行くんじゃあ〜!」

酔っ払っている癖に、団兵衛はアンシーに気付いた。そのまま彼女を追いかけていきそうである。よっぽど彼女が気に入ったらしい。ハニーは団兵衛の首根っこを掴んで、自分の方へ引き寄せた。

〈ハニー〉「さあ、おじ様!今日はトコトン飲みましょう!」

ハニーはアンシーに目で促した。アンシーはそっと部屋を出ていった。

 

《月夜のハニー》

万一私が死に私の脳波が止まると同時に動き出す。

今この人形を見ているということは私が死んだということだ。

お前の身体の事でどうしても話さねばならない事があったのだ。

『空中元素固定装置』

空気中の元素を瞬時に組み合わせあらゆる物を作り出す装置だ。

『空中元素固定装置』は、ハニーの七変化を可能にする。

基本の七変化にはそれぞれ特殊な能力を発揮できるようにハニーの電子頭脳に組み込んである。

特に『キューティーハニー』のスタイルになった時、人間の4倍の運動能力が発揮できる。

しかしお前の身体は人間と変わらない。

ナイフで切れば血も出るし痛みもある。涙も出れば汗も出る。

全て人間と変わらない身体なんだよ

弾も弾き返す超人にする事も出来た。だがそれをしなかったのは、

お前が心を持ったアンドロイドだからだ。

人間の心を持つ者には、人間の身体が必要だと私は信じたからだ。

『空中元素固定装置』だけではなく、お前の身体は富を生み出す発明の宝庫

いわばその身体そのものが財宝なのだ。

世界中には欲に眼の眩んだ悪党どもが山ほどいる。

彼らがお前の身体の秘密を知った時、あらゆる手段を用いて手に入れようとするだろう。

だが予想もしなかった恐ろしい敵に眼をつけられてしまった。

犯罪結社『豹の爪(パンサークロー)』だ!

幹部は特殊能力を持つ女性サイボーグで組織された犯罪組織だ。

彼らはまさに魔女軍団だ。

『豹の爪』の魔の手から自分の身を守るのだ!

お前は私の頭脳と情熱の全てを注いだその身体の一つ一つ全てが

私の愛の結晶なのだ!

行きなさいハニー

この屋敷は手がかりを消す為に消滅する。

さよならハニー

永遠に美しい私のハニー

さようなら

深夜。ウテナはハッと眼を覚ました。次の瞬間、激しい頭痛が襲ってきた。

〈ウテナ〉「アイタタタタ…」

慣れないアルコールを何杯も飲んだせいだろう。知らない間に、ハニーの部屋で眠ってしまったらしい。誰かが掛けてくれたのか、ウテナは毛布を着ていた。

起きて部屋を見回すと、団兵衛と順平が仲良く抱き合って、二階ベッドの下の方でイビキをかいていた。上のベッドにハニーは居なかった。

ウテナは頭痛を覚まそうと外に出た。公園を歩いていると、噴水の縁にハニーが座っていた。

〈ウテナ〉「…ハニーさん…」

ハニーはぼんやりと月を見ていたが、ウテナの方を見た。

〈ハニー〉「あら、眠れないの?」

〈ウテナ〉「ええ。…でもいつのまに寝ちゃったのかなぁ。あのー、良く覚えてないんですけど…ボク何かしました?」

ウテナは寝少し不安になってハニーに聞いた。

〈ハニー〉「フフフ…あんまり聞かない方がいいわよ。」

ハニーは少しいたずらっぽく笑った。もしかして団兵衛達といっしょに腹踊りでもしたのかも…と、ウテナは想像してゾッとした。思い出さない方がいいかもしれない。気を取り直してハニーの横に座った。両腕で自分のヒザを抱える。

ウテナは、隣でハニーがこっちを見ているのが感じていた。何故か少しドキドキしている自分の事が変だと思った。

〈ウテナ〉「あのー…放課後帰り道で会ってた人って、ハニーさんの恋人ですか?」

〈ハニー〉「えっ?ああ、青児さんの事?」

ハニーはどう応えようかと、少し迷った。

〈ハニー〉「うーん…彼は、早見家の長男なの。色々とお世話になっているわ。…ウテナちゃんには好きな人とかいないの?」

〈ウテナ〉「えっ、ボクですか?」

ウテナは足先をパタパタさせながら、照れくさそうに考えた。

〈ウテナ〉「…好きな人って言うか、僕には会いたい人がいるんですよ。」

〈ハニー〉「会いたい人?」

〈ウテナ〉「ええ。…昔、ボクが小さい頃…この指輪をくれた人。」

ウテナは、左手の薬指の指輪を見せた。

〈ハニー〉「これは、生徒会の…」

〈ウテナ〉「ボクのはちょっと違うんですよ。…小さい頃に両親を亡くして…その時、この指輪をくれて元気付けてくれた…その…王子様がいたんです。」

〈ハニー〉「王子様?」

〈ウテナ〉「ええ。笑っちゃうでしょう?…でもその人がボクに、

深い悲しみに一人で耐える小さな君、

どうか大人になっても

その強さ、気高さを失わないで

といって、この指輪をくれたんです。」

ウテナは、自分の指輪を見つめながら話した。

〈ハニー〉「…」

〈ウテナ〉「その指輪が、君を導くだろうって…。僕は、その王子様に会う為にこの鳳学園に来たんですよ。」

〈ハニー〉「…そう。そうだったの…」

ハニーは、ウテナの左手にそっと自分の左手を重ねた。

〈ハニー〉「…さあ、明日も早いわ。もう寝ましょうか。」

ハニーと廊下で別れたウテナは、自分の部屋に戻った。アンシーは、部屋に帰っていなかった。

*次回

第7話『鳳学園生徒会VSパラダイス学園』

 

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