第12話『情念の蔦』

《姫子の剣》
《ラセンの剣》
《ハニーの部屋》
《樹璃の決意》

<前回までのあらすじ>

「ボクは、王子様になる!」「天上ウテナ」は、密かな思い出と決意を胸に名門鳳学園中等部に入学した。男子の制服を着る変わった女の子だった。ある日彼女は生徒会が行っている『決闘ゲーム』に巻き込まれ、『薔薇の花嫁』と呼ばれる「姫宮アンシー」を守る為に決闘場で闘う事になってしまう。だがその類まれな能力で彼女は決闘を挑んでくる生徒会メンバー達、「桐生冬芽」「西園寺恭一」「有栖川樹璃」「薫幹」「桐生七美」の挑戦をことごとく退けてきた。『決闘の勝者』には、『世界を革命する力』が与えられるといわれているが、果たして・・・?

最近は、その挑戦者が意外に人物になってきていた。「鳳香苗」「薫梢」「高槻枝織」「石蕗美蔓」「篠原若葉」「苑田茎子」・・・。彼らの胸には、『黒薔薇』がつけられていた。更にその陰で、謎の者達が暗躍をしていた。彼らもまた『世界を革命する力』を求めてやってきたのだった。転校生として、謎の女生徒2人が侵入してきた。これを受け入れた鳳学園理事長代理である「鳳暁生」は、対抗手段としてある一手を講じた。

次の日、その女の子は鳳学園に現れた。彼女の名は、「如月ハニー」。冬芽は彼女と謎の転校生2人の関係を探るべく、舞踏会を開催する事にした。華やかな衣装で舞踏会の注目を集めたハニー。しかし「神崎姫子」と「神武子」の登場と共に会の雰囲気も壊されてしまった。ハニーは、ウテナ達と同じ東館の女子寮に入室した。続いて鳳学園では「アルフォンヌ先生」「常似ミハル先生」の恩師達も登場(笑)!そして西園寺いるの道場では、謎の道場破りが彼に立合いを挑んできた!一方、お昼休みに中庭で楽しく昼食を採るウテナ達。突然、ハニーが理事長室に呼び出され、ウテナとアンシーもついて行く。理事長室では、姫子と武子が、暁生に『決闘ゲーム』参加の承認を迫っていた。暁生は、彼女達に研究室の「御影草時」を訪ねる様にと、『薔薇の刻印』の入ったメッセージカードを渡す。

教室に戻ったハニーは、授業に退屈して学園脱走を企てる。校門を出時、ハニーにまた来訪者があった。訪ねてきた「早見青児」より、ハニーは『王子と魔女の物語』を聞く。続いて東館に帰ったハニーを待っていたのは「早見団兵衛」「早見順平」!彼らも、そのままウテナ達の東館に居候してしまった。その世、ハニーはウテナが鳳学園に来た理由を彼女の口から聞く。

次の日、ハニーもウテナの真似をして男子制服に着替えて登校する。しかし学園の校門には、人だかりが出来て中に入れない。見ると、「早見直次郎」が聖パラダイス学園の生徒達を連れて乗り込んでいたのだった。直次郎達に帰るように言うハニー。「足手まといになる」という理由を示す為に、ウテナを相手にケンカをする者を集う。結局パラダイス学園男子生徒達と鳳学園生徒会の大喧嘩となったが、これは生徒会の圧勝となる。枝織に焚き付けられ、樹璃はハニーにフェンシングでの立会いを迫る。その昼休み、幹と共にウォーミングアップをする樹璃の元にフェンシングスタイルをした謎の女が現れた。樹璃は自信満々で挑んだが、惨敗に終わる。

そして午後の授業中、アンシーがハニーから託ったというメッセージカードをウテナ達は開くと、何と「学園脱走」の指令が書かれていた(笑)!アンシーの仮病をきっかけにウテナ達は教室を脱出、ハニーと合流し、ミハル、アルフォンヌ、「みょうばん」の妨害を潜り抜けたかに見えたが、結局大胆な脱走劇になってしまった(笑)。早見一家と梢と合流したウテナ達は、樹璃御用達のボーリング場にて大ボーリング大会。帰りにプリクラで記念撮影をし、一時学園に戻ったウテナに待ち受けていたのは、『決闘ゲーム』の案内状だった!

ウテナへの次の挑戦者は、なんと謎の転校生「神崎姫子」だった!結果は一瞬のうちにつき、ウテナは何も出来ないまま胸の薔薇を散らされ、「薔薇の花嫁」であるアンシーは姫子の手に落ちてしまった。失意のウテナを、ハニーは夜のツーリングに誘う。明朝、アンシーは鎖につながれて姫子と学校に現れる。彼女を助けようとした直次郎は、武子と組み合いになって両腕を負傷。何も出来ず呆然とするウテナが、昼休みに冬芽に連れられ来た生徒会室には、「特別委員」として招かれたハニーがいたのであった。

真剣で戦う決闘、神崎姫子の人間離れした力、次の挑戦者に指名されたハニーを止めようとするウテナだったが、ハニーは事も無げに「慣れているから」といい、決闘場に向かうのだった。ウテナ達生徒会メンバーが見守る中、ハニーと姫子は人間同士の決闘ゲームを遥かに越えた戦闘を始める。

《姫子の剣》

<姫子>「…この剣では、お前を倒せない。」

姫子は、手に持っていたディオスの剣を投げ捨てた。

<姫子>「私には、私の剣を!」

姫子は、右手をかざした。

<姫子>「イヴィー=パッション(情熱の蔦)!」

姫この右手の平から、黒い棒状の影が伸び出した。それは剣となって輝き、彼女の手に納まった。刃渡り2メートルはあるだろうか。柄の部分が、黒メタルで蔦の様な装飾がされている。刃自体も銀色に光るものではなく、妖気を帯びたように黒光りを放っていた。常人には扱えない代物であるが、姫この体力を持ってすれば、強力な武器となるはずである。この長剣を使われては、ハニーが懐に入って攻撃する事は、さらに難しくなってしまった。<樹璃>「…まずいな、これは。」

樹璃も、ハニーの戦況が不利になったと感じた。姫子は不適にニヤリと笑った。

<姫子>「ハッ!」

長い脚の踏み込み、長い腕、長い剣の突きがハニーを襲った。ハニーはとっさに剣を両手持ちに変え、その突きを払った。

”ギャギィィィ−ン!”

案の定、とてつもなく重い突きであった。片手で払っていたら、剣ごと持っていかれてしまっていたかもしれない。ステップバックをして距離をとろうとしたが、更に素早く姫子の突きがハニーを追い詰める。

<姫子>「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

パワーの乗った重い突きの連続攻撃が襲う。

”ギャン!ギャギャィン!ギャン!ギャン!”

ハニーはその衝撃に顔をしかめながら、両腕でそれを払う。サイドステップをしながら突きの軌道を逸らす。姫子は突き出した長剣を素早く引き戻し、更にハニーを追う。一度長剣を引き付け、今度は両手に持って斜めに一気に切り込んだ。

<姫子>「ハッ!」

ハニーはそれを剣で受けようとはせず、素早いステップバックで避けた。

”ヒョォォッ!”

鋭く空を切り裂く音が、ハニーの目前で通り過ぎる。姫子の長い脚は、ハニーに距離をとらせず更に追い詰める。

<姫子>「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

連続斬りが襲いかかる!しかしそれらは、切れるかと思った瞬間、ハニーの像がぼやけて消える。高速で後ろに下がっているのである。当たれば一貫の終わりであるが、ハニーは巧みにこれをしのいでいた。姫子は長剣を右手に持ち変えると、再び斬り掛かった。

<姫子>「ハッ!」

今度は片手なので、リーチが更に長くなる。腰・肩の回転が更に乗っているので、うかつに剣で受けたり払ったりするのは危険である。ダッキングで態勢を低くしてかわしたが、姫子はそのまま身体を一回転させて更に斬って来た。

<ハニー>「トォッ!」

ハニーは長剣の軌道よりも素早く側転し、ブーツの跳躍力を利用して姫子の射程外まで跳んだ。姫子は身体を回転させたまま跳び上がり、着地したハニーを追って更に斬り付けた!

<姫子>「ハッ!」

<ハニー>「タァッ!」

”ギャキャァッ!”

ハニーが素早く跳びのくと、足元の石畳を姫子の剣が弧を描き、土埃が上がった。着地した姫子はすぐに跳び上がり、身体を駒の様に回転させながらハニーを追った。剣を振りかざし、身体の回転に合わせて着地したハニーに斬り掛かる!

<姫子>「ハァッ!」

<ハニー>「トォッ!」

”ギャキャァッ!”

ハニーがまた跳びのくと、その足元を姫子の剣が切り裂く。

<樹璃>「…これでは、彼女は中に入れないな。」

樹璃のオペラグラスを持つ手が汗ばんだ。

姫子の回転斬りは、ハニーの脚を狙っていた。上半身だと後ろに反ってかわされる可能性がある。何よりハニーのスピードを殺すことが目的であった。上空から斬り込まれる剣は、ハニーがかわすとその足元の石畳を削るのだった。少しでもタイミングを間違うと、終わりである。二人は決闘場の中を5メートル程交互に跳び回った。

<樹璃>「ムッ…これは?!」

遠方から見ている樹璃たちには、姫子の動きに意図があることが読み取れた。少しずつ、ハニーは決闘場の堀付近に追い詰められているのだった。果たしてハニーは気づいているのだろうか?堀に追い詰められてしまうと、彼女の逃げ場はなくなってしまう。ハニーは姫子の剣の斬る方向に合わせて同じ方向へ跳ぶ。姫子はそれを調整し、時に斬る向きを変えてハニーの跳ぶ方向をコントロールしていたのだった

姫子の次の一撃を逃れた時、視界の隅に堀が入った。ハニーはようやく気づいた。
<ハニー>「はっ?!」
着地した瞬間の思わず後ろを振り返ってしまったが、すぐに姫子の長剣が襲い掛かってくる!高く跳び上がることは出来ない。長い滞空時間をとってしまうと、姫子に走って先回りされてしまう可能性がある。姫子は勝利を確信して笑みを浮かべた。振り返って一瞬動きが止まってしまったが、ハニーはかろうじて次の姫子の一撃を跳んでかわした。
<樹璃>「!それではダメだ!」
樹璃葉思わず叫んだ。ハニーが跳んだその後ろには、もう逃げれる場所はなかった!
<ウテナたち>「!!」
ハニーは背後の堀の壁を素早く蹴り、姫子の長剣の軌道の上に一直線に突っ込んで行った!シルバーフルーレは、姫子の顔をねらう!しかし信じられないことに、姫子は反射的に頭を逸らし、間一髪その突きをかわしてしまったのだった!ハニーの剣は、姫子の髪の一房を切り、白い頬に一筋の傷をつけた。
<ウテナ>「上手いっ!」
ウテナは、ハニーの戦い方に大感動していた。
無理な態勢でハニーの一撃をかわした姫子は、バランスを崩し自分の長剣に振り回されて、ストップモーションの様に石畳に倒れて行く。白い姫子の頬の傷から流れたのは、「紫色の血」であった。ハニーは猫の様に低い態勢で空中前転をして着地すると、倒れる姫子に飛び掛って行った!こんなにバランスを崩しても、姫子はうつ伏せに倒れるのを左手を立てて防いだ。胸の薔薇の花を守ったのだ。しかしすぐに顔を上げると、迫ってくるハニーが目に飛び込んで来た!
<ハニー>「タァーッ!」
<姫子>「ムウッ!」
支えていた左手の力で、姫子は身体を仰向けに返した。ハニーの剣は、その後の石畳に突き刺さった!
”ボン!”
続けて姫子は同じ方向へ身体をグルグル回転させて、石畳の上を移動した。その後を、素早いスピードでシルバーフルーレの突きが刺さる!
”ボン!ボン!ボン!ボン!”
姫子は寝転んで回転しながら、身体の角度を斜めに変え、その勢いで右足を蹴り出した!
<ハニー>「ハッ!」
ハニーは素早くその蹴りを飛び越えた。蹴り出した右足の勢いのまま、姫子は身体を翻して立ち上がった。
更にそのまま回転して、長剣を繰り出した!
<姫子>「ハッ!」
<ハニー>「トォッ!」
ハニーは、飛び下がって再び射程距離の外に逃げるしかなかった。
 
姫子は長剣を構え直すと、白い頬の傷を左手で触れた。指先に「紫色の血」がついていた。
<姫子>「…よくも!」
姫子の表情が険しくなった。
<姫子>「我が剣の力を思い知るがいい!」
姫子は、再びフェンシングの構えをとった。
<姫子>「ハッ!」
長い脚の踏み込みで、一気にハニーとの距離を詰めて突きを繰り出した。ハニーは横に身体をかわしつつ、その突きを両手で払って軌道をずらす。
”ギャキィィン!”
突きを引き戻すと、更に踏み込んでハニーを突く!ハニーは、姫子の突きをしのぐのが精一杯だった。何とか自分の射程距離に入ろうと横にかわしていたのだが、仕方なく後方へ大きく跳び下がって距離をとった。姫子はこの時を待っていたのか、ニヤリと笑って距離があるのにかまわず突きを繰り出した。
<姫子>「ハァァッ!」
4メートルは距離をとったハニーに、姫子の突いた剣が届くはずはなかった。しかし姫子の剣は、更に伸びてハニーに襲い掛かった!
<ハニー>「?!」
とっさにバックステップをして下がったが、剣は更に真っ直ぐ伸びてハニーを追って来る!
<ハニー>「?!」
ハニーは横に跳び、両手持ちで追って来る剣をはらった。
”ギャギャギャギャギャァァァン!!”
両手に来る衝撃が長い。ハニーは懸命に自分の剣を支えた。姫子の突きと、剣自体の伸びる力がかかり、両手ごと持って行かれそうだった。ハニーがはらって止めた剣は、10メートルの長さになっていた。
<樹璃>「な…なんだあの剣は?!」
<幹>「ま、魔法の剣・・・?」
<冬芽>「…いよいよ奴らの本領発揮か。」
ウテナ達はただただ固唾を呑んで、この決闘に見入るだけだった。
<姫子>「フン!」
姫子が剣を引くと、延びていた剣も元の長さに戻った。どうやら、長さが自在に伸びる剣であるらしい。何か仕掛けがあるにしても、現在の人間の技術では無理な様に思えた。
<姫子>「ハァッ!」
姫子は大きく踏み込んで、再び突きを繰り出した。剣は弾丸の様な勢いで、10メートル先のハニー目掛けて一直線に伸びていった。先程の突きをはらって腕が痺れてしまっているハニーは、この剣をはらうことは出来ずに、大きく上体をダッキングしてかわした。姫子が腕を引き戻すと、剣は再び2メートルの長さに縮んで、彼女の手元に戻った。何度かこの攻防が繰り返されたが、ハニーは姫子の長距離突きをかわしつつ、少しずつ距離を詰めて行った。
<ウテナ>「・・・よしよし・・・そのまま近づいて・・・」
ウテナはオペラグラスを持つ手を汗まみれにして、食い入るように見入っていた。あまりにも不利な状況になっているのに、ハニーは全く諦めることなく反撃の機会を探っている。ウテナは、ハニーを応援せずにはいられなかった。しかし姫子はそのハニーの動きを読んだのか、今度は引き寄せた長剣を大きく振りかぶった。
<姫子>「フン!」
気合一番、それを大きく横に一振りした。遠心力で引かれるかの様に剣は再び伸び、巨大な振り子の様にハニーに襲い掛かった!ハニーは、地に伏せる様に低く身体を落としてこれを避けた。その頭上を伸びた剣が、風を切るうなり声を上げて通り過ぎる!
”ヒョォォォッ!”
弧を描いて姫子の方に戻って来る時には、伸びた剣は元の長さに縮んで行った。そのまま姫弧は剣を振り回して、斬り掛かる!剣は再び伸びてハニーを襲った。低く沈んで、これをかわすハニー。かがむ動きで浮いてしまったハニーのピンクの髪が、頭上を通り過ぎる剣に数本切られてしまった。高く飛び上がって、一気に距離を詰めたいところだが、それは出来ない。今度はあの剣が伸びて、空中のハニーを迎撃するかもしれなかった。ハニーは頭上の剣が通り過ぎる度に、前転して姫子との距離を再び詰め始めていた。
<姫子>「くっ・・・小賢しい女!」 《ラセンの剣》
未だにハニーを攻略できないことに焦れたのか、姫子は振り回していた剣が戻ってくると、再びフェンシングの構えをとった。
<姫子>「今度は逃がさん!」
再び、大きく踏み込んだ突きを繰り出した。剣は、一直線に伸びてハニーに襲い掛かる。ハニーは上体を振ってかわそうとした。
<ハニー>「?!」
何が起こったのか、剣は軌道を変えて、かわしたハニーの方へ向かってくる?!とっさに自分の剣の角度を変え、襲ってくる剣を振りはらった!
”ギャギャギャギャギャィィィーン!”
しかしそのタイミングはギリギリで、刃はハニーの頬に傷をつけた。見るとその剣は、カーブを描いて動いていた!姫子の剣は、伸びるだけではなく曲がることも出来るのだ!今まだ伸び続ける剣を受けつつ、その軌道を目の隅で追ったハニーは、剣先が再び弧を描いて襲ってくるのを知った!
<ハニー>「?!」

一度ハニーの背後まで伸びた剣は、そこから曲がってターンし、背中から突き刺そうと襲い掛かってきていた!ハニーは反対側の方向へ素早く飛んだ!頭上より襲ってきた剣は、ハニーがいた石畳を貫いて中に潜ってしまった。まるで蛇の様である。先程の軌道を描いたまま、姫子の剣は更に伸び続け、地中を進んでいるかのようであった。
キュキュキュキュキュ〜!
伸びる剣の刃と石畳のこすれで、不快感を催す音が響き渡っている。
ヒザを付いて着地した瞬間、ハニーは聴覚のレベルを最大にした。地中をうごめく剣は、既に足元近くまで迫っていた。
<ハニー>「ハッ!」
飛び退いた瞬間、足元から剣先が石畳を割って飛び出した!
ドカァァッ!
失敗したと見るや、剣は再び弧を描いてハニーを追った。間一髪、ハニーはまたその剣の攻撃から飛び退いた!
ズカァァン!
更に剣は地中を進み、ハニーの足元から飛び出して襲う!しかし地面の音を聞き分けるハニーの聴覚は、それを察知して再びその場から飛び退いた!
<ハニー>「トォ!」
ドカァァッ!
<樹璃>「おい!いくらなんでもあれはやり過ぎだ!決闘として認められない!すぐにやめさせろ!」
樹璃は、見るにみかねて冬芽に食って掛かった。しかし冬芽の反応は、実に冷ややかなものだった。
<冬芽>「・・・どうせよというのだ?どんな魔力があろうとも、あれは彼女の剣なのだ。それに決闘に使用する剣は、どの様な剣でなければならないという決まり事もない。」
冬芽は、オペラグラスから眼を離す事すらしなかった。
<冬芽>「・・・胸の薔薇を散らすこと。これだけが、勝利のルールだ。」
冬芽の背後には、何か大きな撮影用カメラが回っていて、不気味な音を立てていた。
<ウテナ>「そ、そんな無茶な!生徒会特権とか何とかで何とかしろよ!このままだと、ハニーさんが・・・!」
<冬芽>「慌てるな!」
樹璃に続いて食って掛かって来たウテナの言葉を、冬芽はさえぎった。オペラグラスから離した眼も、異常なほど落ち着いていた。
<冬芽>「・・・俺たちには現実離れしたこの決闘も、アイツ等にとっては普通なのかもしれない。彼らは、そういう世界の人間なのだろう。彼女が今、俺たちの前にいるということは、こういう決闘に勝って来たからかもしれない。」
<幹>「・・・なるほど。それは、そうかもしれませんね。」
幹は、冬芽の意見を理解した。
<冬芽>「あの女に秘策があったように、彼女にも何か秘策があるはずだ。・・・俺達は、出来るだけ奴らの手の内を知らなければならない。」
冬芽は、再びオペラグラスを眼に当てた。
<西園寺>「・・・奴等は好敵手(ライバル)というより、天敵同士という感じだな。」
<七実>「・・・でもこんなの見たって、私達ではどうにもならないわ。」
しかし、七実も決闘場から眼を離せなかった。
ウテナは決闘に行く前のハニーの言葉を思い出していた。彼女は幾度となく、こういう闘いを経験してきたのだろう。今でも圧倒的に不利な状況に見えるのだが、ハニーは冷静に反撃の機会をうかがっていた。ハニーに秘策があるのだろうか?ウテナは手の平の汗を上着の裾で拭うと、再びオペラグラスに眼を当てた。
<姫子>「エエィ!チョコマカとすばしっこい!」
姫子はツタの様に伸びた剣を、ムチで床を叩く様に勢いをつけて振り下ろした。その力は山型の波の様にしなって伝わり、石畳を突き破って地中に埋まる剣を一気に飛び出させた!
ゴガバババッ!ババッ!
ツタの剣が埋まっていた周囲の石畳は、めくれ上がって空中に舞った!さすがのハニーも足元をすくわれ、転倒した。
<ハニー>「アアッ?!
広い決闘上の床は、巨大なミミズでも這ったかの様にうねった瓦礫の山のウネが出来てしまった。姫子は蛇の様に波打つ伸びた剣を素早く引き戻すと、元の長剣の長さに戻した。
<姫子>「これで・・・どうだぁっ!」
長剣を前方に突き出し、剣先で円を描く様に振り回した。すると剣は、ちょうど新体操のリボンの様に渦巻きを作りながら伸びて、ハニーに襲い掛かってきた!

直径1メートル程の渦巻きである。刃が高速回転しているので、少しでも触れてしまうと一溜まりもない。
<ハニー>「タァーッ!」
ハ二ーは一気に10メートルほど横に跳んでかわしたが、剣の渦巻きはすぐに後を追ってきた。剣自らが回転しているので、斬る・突くなどに必要な一度自分に引き付ける動作がいらない。ハニーを捕らえるまで、回転しながら追ってくるだけである。剣の渦巻き自体が、巨大な蛇の様に見える。時に上下左右に身体を曲げながら、地面に触れると、そこはグラインダーで削られる様に耳を貫く不快なうなり声と土埃を上げる。
ギャギィギャギャギャギャッ!!”
剣のスクリューは、トグロを巻く様にハニーを取り囲んだ。そのまま作った輪を縮めて、切り刻もうと締め上げるが、
<ハニー>「タァーッ!」
ハニーはすぐに飛び上がってそれから脱出した。蛇が鎌首を持ち上げる様に、上に伸び上がって剣の渦巻きはハニーを追った。
<ハニー>「トオーッ!」
ハニーが着地してすぐにジャンプして飛びのくと、その後を剣のグラインダーが削り取った。
ギャルルルルゥッ!!”
姫子の渦巻き攻撃の前に、ハニーは手が出せず逃げる一方となってしまった。決闘場はハニーを追う渦巻きに削られて、瓦礫の山が方々にでき、土埃が舞っていた。このままでは、決闘場自体が破壊されてしまうかもしれない勢いである。ハニーは渦巻きから逃げるのに精一杯で、土煙に紛れて姫子が距離を詰めていることに気がつかなかった。再び背後から襲い掛かる渦巻きを避けるため、ハニーは跳び上がった。
<ハニー>「トゥッ!」
その瞬間、姫子は一気に剣のツルを引き戻し、上空にいるハニーの真下に飛び込んだ!
<姫子>「ハニー!これで最後だぁっ!」
上空を目指し、長剣で3メートル程の円を描き高速回転を始めた。新体操のリボンの様にそれはまた螺旋の渦巻きとなり、空中に伸びてハニーをスッポリと覆ってしまった!!
<ハニー>「?!
<ウテナ達>「?!
姫子は剣の回転を小さくしていった。剣の回転は、柄の所からドリルの様に細くなって行く。このままハニーを締め上げるつもりである。ハニーは真っ赤な肉片にスライスされて、一貫の終わりである!!姫子は勝利を確信し残忍な笑みをたたえ、舌なめずりをした。
<ウテナ>「ああーっ!ハニーさんがぁっ!!
<七実>「きゃあああーっ!!
これまでの決闘ではありえない、あまりにも残酷で悲惨な決着である。胸の薔薇も、跡形もなく散ってしまったであろう。
<樹璃>「いや待て!あれは?!
<冬芽>「ムッ?!
ドリルの様にすぼんだ筈の剣の渦巻きは、何故かハニー退いた場所だけ大きな楕円になって膨らんでいた。
<姫子>「何事だ?」
姫子は更に剣を回す勢いを速めるが、一向にその場所だけ小さくならない。姫子は渦巻きの先を手前に向けて中をうかがった。
<姫子>「?!
<ウテナ達>「?!
ハニーは周りを囲む剣の渦巻きに対して、両足を大きく拡げていた。彼女のヒールのついたブーツが、光を帯びている。渦巻きの回転に振り回されることもなく、無重力の様にその場で浮かんでいた。
<姫子>「あのブーツか!」
<ウテナ>「凄い
しかし渦巻きを手前に向けて中を確認したのは、姫子のミスだった。ハニーは、その態勢から剣を両手に持って頭上高く振り上げていた。
<ハニー>「神崎姫子!覚悟ぉっ!!
ブーツで宙を蹴って渦巻きから飛び出すと、ハニーは振りかぶった剣を姫子に放った!!剣は一直線に飛んで、姫子の胸を中央に深々と突き刺さった!!
ドクゥワァッ!
<姫子>「うぉぉ!!
<ウテナ>「やったぁっ!」
ウテナは思わず声を上げた。
 
<冬芽>「ムッ?!イカン!これでは、彼女の負けだ!!
<樹璃>「何っ!どういうことだまさか?!
ハニーも、自分がしてしまったミスに気がついた。
<ハニー>「ハッ!しまった!!
ツタの様にしなった閃光が、ハニーの胸の薔薇を切り落とした!
ヒュン!
<ウテナ達>「?!」
立ち尽くすハニー達の耳に、姫子の声が静かに響いた。
<姫子>「フッフッフッフッそう。お前は決闘ゲームをする為に来たのではない。我等を滅ぼす為に来たのだ。」
ハニーの胸の薔薇は、鳥の羽の様にユラリユラリと揺れながら、足元に落ちて行く。胸に剣を突き立てたまま、姫子は夢遊病者の様によろめきながら声を発した。
<姫子>「お前が私の攻撃に追い込まれる時必ず急所を狙って倒しに来るはず・・・フッフッフッフッ幸い、私にはお前を追い込む力があったらしい
姫子の足取りは、更に不安定になり、まるでダンスでもしている様に緩やかに回り始めた。
<姫子>「イザという時、急所が僅かに動く様にしておいたのさフッフッフッフッ私の勝ち私の勝ちだ
姫子は白目をむいて、仰向けに倒れて行った。すると何処にいたのか、巨大な影が素早く彼女に近づき、その身体を受け止めた。郷武子であった。姫子は武子の大きな腕に包まれると、静かに眼を閉じた。武子は静かにハニーの方を見た。頭巾でその表情は判らなかったが、何故か眼だけは浮かび上がる様にハニーを見据えていた。
<武子>「如月ハニー。姫様に手を掛けたお前を、私は許さない。今度は、私がお前を倒す。」
それだけ言い残すと、一瞬で姫子の胸に突き立った剣を引き抜き、石畳に突き立てた。武子の巨体は、その場でかき消されたかの様に姿を消した。見ると、足元の石畳に紫色の血の跡が残っていた。それは5メートル程の間隔を置いて、アーチの所まで続いていた。
<樹璃>「何ということだ。・・・彼女が敗れてしまった!」
バルコニーの生徒会メンバー達は動揺した。ウテナは、ハニーのことが心配だった。
<ウテナ>「ハニーさん
その間、ハニーは呆然として両膝を石畳に着き、しゃがみ込んでしまった。ハニー、初めての敗北であった。姫子達の去った決闘場は、まるで地震でもあったかの様な有様だった。碁盤の目の様に綺麗に並べられていた筈の石畳は、方々にヒビが走り、めくれ上がって畝を作る瓦礫の山を作っていた。
 
《ハニーの部屋》

夜。ウテナはパジャマを着てベッドに入ったものの、眠ることが出来なかった。この部屋にもアンシーとチュチュがいて和やかだったのだが、今は二人共いなくなってしまった。ベッドの二階から降りて、机に頬杖をつきながら、窓から見える夜空の月をボーッと眺めていた。頭の中では、先程のハニーと姫子の決闘が何度も浮かんできていた。実をいうとウテナは、ハニーのことが気になっていた。校門でハニーが出て来るのを待って、一緒に帰るつもりだったのだが、ハニーはウテナに気づかなかったのか、そのまま彼女の横を通り過ぎて、校門を出て行ってしまったのだった。慌てて後を追ったのだが、何故か誰も来て欲しくないかの様にうつむいて足早に歩いて行ってしまった。
しばらくしてからにしようと思ったのだが、ハニーは夕食を食べに出てこなかった。順平達は明るく振舞っていたが、ハニーの事は何も話さなかった。明日にしようかとも思ったのだが、何故かウテナ自身がハニーの事が気になって落ち着かないのだった。
<ウテナ>「よし!」
ウテナは意を決して立ち上がると、ハニーの部屋へ行った。

廊下を足音を忍ばせて歩き、ハニーの部屋のドアノブに手を掛けた。ゆっくり回してみると、鍵は開いていた。恐る恐る、ドアを明けて中を見た。

<ウテナ>「ハニーさぁ〜ん…」

声を潜めて、声を掛けた。ハニーがベッドで静かに寝ていたら、そのまま自分の部屋に戻るつもりだった。順平達は、別の部屋を使っている。昼間はハニーかウテナの部屋で皆で騒ぐのだが、眠る時はハニーひとりだった。月明かりで、部屋の中が見渡せた。テーブルの上にはトレイに乗せた食器類があった。順平が、気を効かせて部屋に持って行った夕食だ。キチンと食べてあった。ハニーは2段ベッドの下の方で、ヒザを抱えて座っていた。可愛いフリルのピンクのネグリジェを着ている。中の下着は白だった。ウテナが来たのにも気付いていないのか、何か焦点なくボーッとしている様に見えた。ウテナは、ベッドにいるハニーに近づいた。

<ウテナ>「ハニーさん!」

小声で再び声を掛けた。ハニーは驚いて正気に戻り、ウテナの方をクリクリとした眼で見た。

<ハニー>「ハッ!…うん、何?」

髪の毛などを気にして、両手で左右を撫で付けた。

<ウテナ>「いやぁー…ハニーさんどうしてるかなぁって…」

ウテナは、御機嫌を伺う様な作り笑顔で、ハニーの顔を覗き込んだ。

<ハニー>「私?私は大丈夫よ。心配しないで。」

先ほどとは変わって、ハニーはケロリと答えた。

<ウテナ>「そ…そうですか…」

ハニーに事も無げに答えられてしまったが、ウテナは何か去りがたく立ち尽くしてしまった。ハニーは微笑んで、ヒザを立ててウテナの傍に来た。ゆっくり両手を伸ばして、ウテナを優しく抱き寄せた。ウテナの顔が、ハニーの柔らかい胸の膨らみに温かく包まれた。

<ハニー>「…大丈夫よ。大丈夫。」

ウテナの髪を撫でながら、まるで自分に言い聞かせるようにささやいた。

<ハニー>「今度こそ、アイツ等を倒して見せるわ。アンシーちゃんも、取り返すわ…」

不思議な感じであった。決闘も非日常的なことであるが、今回はそれよりも異常な事が次々と起きているのである。明らかに人間ではない転校生たち。ウテナは決闘で敗れ、アンシーは彼等の手に落ちてしまった。先の決闘も、ゲームの域を遥かに越えた戦闘で、勝者の神埼姫子は、胸を剣で貫かれたのである。それでも生きていたとなると、正しく魔物ではないだろうか。これだけの危機の中でウテナが落ち着いていられるのは、ハニーがいるからであった。冬芽のいう様に、彼女が今ウテナの前にいるということは、それだけの危機を乗り越えてきたのだと思える。現に、決闘でもルールでは敗れたとはいえ、実戦であったのなら彼女が勝っているのであった。

ハニーに抱きしめられ髪を撫でられていると、ウテナはとても穏やかな気持ちになった。ウテナには、こういう経験がなかった。

<ハニー>「…約束するわ。」

<ウテナ>“ハニーさん、あなたは一体…誰なんですか?”

ウテナはその問いを、ハニーの温もりの中で治めた。

<ウテナ>「…ハイ。」

ハニーは抱く手をほどくと、優しく両肩に手を掛けて、ウテナの上体を起こした。

<ウテナ>「…何だか、気持ちがスッキリしました。

クリクリとした眼が、ウテナを見つめていた。

<ハニー>「そう、良かったわ。」

<ウテナ>「…もう寝ます。」

ウテナは可愛く上目使いでハニーの笑顔を見つめながら、少しずつ後ずさりしながら部屋を出た。

 
《樹璃の決意》

樹璃も前夜は眠れなかった。あの常識外れの決闘。神崎姫子の恐ろしい力。アレだけの窮地に立っての、ハニーの闘い。決闘のルール上は胸の薔薇を散らさなければならなかったが、そうでなければ彼女は勝っていたのだ。姫子もまた、剣を身に受けてでも勝利を獲る覚悟だったのだ。これだけのモノを見せられたら、樹璃の血が騒がぬ筈はなかった。彼等は人間ではないだろう。何者なのか、突き止めなければならない。それもあるが、樹璃はハニーのことが気になっていた。彼女が、今までにどの様な闘いをしてきたのか。高速と破壊力に満ちた戦闘の中で、闘志を保ち冷静に戦術を練って相手を打ち倒す。先の決闘だけでも見当がつく。

しかしルール上とはいえ、彼女は敗れてしまったのだ。初めての敗北。その後の彼女がどうなったのか、朝からウテナ達の通る通学路でハニーが現れるのを待っていた。待つ者にとっては、時間が経つのも遅く感じるものである。ようやく他の生徒達と混ざって、ハニー達が現れた。男子の制服を着、肩にカバンを持った手を掛けて男持ちをしているウテナとハニーは、二人並んでうつむき加減に坦々と歩いてきた。順平達は、付いて来ていなかった。二人が近くに来ても、こちらに気付きそうもないので、樹璃の方から声を掛けた。

<樹璃>「やぁ…おはよう。」

自分でもさすがに、笑顔は作れていないだろうと思った。ハニーとウテナは、樹璃の挨拶に素っ気なく答えて通り過ぎて行った。

<ハニー>「…おはよう。」

<ウテナ>「…おはようございます。」

樹璃はしばらく、並んで歩いて行く二人の姿を見送った

 

さらに樹璃は、校門の裏に隠れる様に立ち、別の者達を待っていた。始業のチャイムが鳴ってしばらくすると、その者達は現れた。神崎姫子と郷武子。そして姫子に連れられた姫宮アンシーだった。アンシーは、相変わらず首から鎖でつながれていた。

 

◇   ◇   ◇

卵の殻を破らねば、

雛鳥は生まれずに死んでゆく。

雛鳥は我々、卵は世界だ。

世界の殻を破らねば、

我らは生まれずに死んでゆく。

世界の殻を破壊せよ!

 

『世界を革命する為に!』

生徒会室の冬芽達の席を囲むように、4台の大型テレビが並べられていた。上映されている映像は、先日の如月ハニーと神崎姫子との決闘だった。

<冬芽>「先日の放課後、諸君も知っての通り我等が特別委員として招いた如月ハニー君が、決闘で敗れてしまった。」

 

<A子>“さーて、大注目の勝負!如月ハニー対神埼姫子の決闘の始まりです!解説のジョー小池さん、この勝負をどう見ますか?”

<B子>“さぁー全く判りませんねぇー。現在の勝者神埼姫子は、天上ウテナをたった剣2振りで倒し、挑戦者の如月ハニーは、バスケットボールとボーリングで天上ウテナに勝っています。”

<A子>“ああ、つまり両者とも天上ウテナより強いという事ですか?”

<B子>“ああ、そういうことですかねぇ?!

 

<幹>「…大変な事になりましたね。頼みの綱のハニーさんが敗れてしまったとは…ああ、姫宮さんが心配ダァ!」

幹は頭を抱えた。七実は気だるそうにテーブルに頬杖をついて、ボーッと映像を見ている。

<七実>「さぁねぇ…なんかでもあの子、気持ち良さそうな顔してなかった?案外、ああいうのが趣味だったりして。」

<幹>「そ、そんな!純情可憐な姫宮さんに限って、そんな事ハッ!」

幹は、ムキになって反論した。

<樹璃・七実>「どこがぁっ?!

樹璃と七実は、同時に突っ込みを入れた。

<西園寺>「ど、どこがとはなんだ?!

西園寺も、ムキになって反論した。冬芽は、くだらない会話が進まない内に手で制した。

<冬芽>「…まあ。問題は、これからどうするかだ。」

 

<A子>“…。えー、ゲストのエトウサリコさんは、どうですか?”

<C子>“エートー、お二人ともカッコいいので、私の好みです。”

<A子>“…。さあ後から入場してきた如月ハニーは、入場ゲートに立ったまま試合を始めるみたいです。薔薇を刺しに行く姫宮アンシーは、歩いて行くのがうっとおしいっ!観ているこちらも待たされ、イライラします!”

 

樹璃は、異様に座った眼で答えた。

<樹璃>「…次だ。次の決闘を、早急に行う事だ。」

七実は、素っ頓狂な声を上げた。

<七実>「つ、次の決闘ですってぇ?!

幹も、樹璃の真意を図りかねていた。

 

<A子>“アーッと!いきなり如月ハニーの奇襲攻撃ダァーッ!なんとあの距離から一瞬で仕掛けました!”

<B子>“まぁー、プロレスではゴング前の奇襲攻撃は定番ですからねぇー。”

<C子>“アッ、今私眼をつむってしまいました!もう一回撮り直して貰えますか?”

 

<幹>「つ、次のという事は…ハニーさんに早速にリベンジしてもらう…という事ですか?」

<樹璃>「いや…そうよそ者に頼ってばかりもいられないだろう。…何なら、私が出てもいい。」

この発言には、他のメンバー達が驚いた。

<幹>「じゅ、樹璃先輩!お気持ちは判りますが、幾らなんでも無茶ですよ!」

<冬芽>「…何か、勝算があるのか?」

<樹璃>「先日の決闘、彼女は確かに敗れたが、命のやり取りであれば勝っていた。そしてあの女、神埼姫子に致命的な傷を負わせた事も事実だ。」

 

<A子>“ナーント!神崎姫子の剣は、足元の石畳を斬ってしまったーっ!”

<B子>“オオッ、サーべルの柄で殴るのとは訳が違いますねぇ!”

<C子>“彫刻とか得意そうですよね!”

 

樹璃は、一同を見回した。

<樹璃>「我々がアイツ等に勝つには、今しかないのだ!」

<七実>「か、勝つって…?!

<西園寺>「どういう事だ?」

「闘う」所か、「勝つ」とまで言い出した樹璃の発言に、皆は身を乗り出した。

 

<A子>“両者とも速過ぎる動き!どうなってるか判らないので、実況のしようがありません!”

<B子>“あー、あれじゃあ某選手のスーパー=ロータリー=フラッシュでも、息子さんの両手撃ちスーパー=ロータリー=フラッシュでも、二人掛りでも当たりませんねぇ。”

<C子>“あっ!私は、ピストルの弾全部斬りましたけど?!

 

<樹璃>「…今朝方確認したのだが、神崎姫子と郷武子の二人は、授業時間に遅れて登校してきた。」

<冬芽>「…それが?」

<樹璃>「昨日は薔薇の花嫁…姫宮アンシーを鎖でつないで、これ見よがしに我々の前を登校して来た。今日遅れて来たのは、我々や如月ハニーとの接触を避ける為ではないか…と考えた。」

 

<A子>“アーッと!如月ハニーの剣が折れてしまったーッ!これは大きなハンディだーっ!”

<B子>“あー、元々リーチの差は歴然ですからねぇー。こうなると飛び道具を使うしかないですね。ブーメランとか。”

<C子>“口からのビームを、打ち返すって手も有りますよ。”

 

<冬芽>「…なるほど。昨日の決闘での負傷、あの女が怪人であってもかなりの傷だった様だな。」

<幹>「でもそれは憶測にしか過ぎません。実際、今の神埼姫子の身体がどういう状態なのか、確認出来てはいません。例えそうであったとしても、僕達の力で勝てるかどうか判りませんよ!もっと調査・検討しないと… 」

“バン!”

樹璃は立ち上がり、机を叩いて幹の発言に割り込んだ。

<樹璃>「では!今以外に、我々が奴等に勝てる機会があるというのか?!

何時もは一番熱い筈の西園寺が、樹璃をなだめた。

 

<A子>“ナーント!如月ハニーの手から剣が出現した!あれは、どういった仕掛けなんでしょうかぁっ?!

<B子>“ハー、なんでも出せるならレーザー光線出すとかどうですかねぇ。”

<C子>“カラオケセットは出せないです。”

 

<西園寺>「まあ、熱くなるな。…それなら…」

樹璃から視線をそらすと、映像を見上げた。

<西園寺>「もう一度、…彼女にやってもらえばいい。」

やや言葉が軽々しい。

<樹璃>「ここは、我々の学園だ!我々は生徒会だ!これ以上、よそ者の力を借りるのか?!彼女だけを頼りにするのか?!これ以上、好き勝手にされてたまるかぁっ!」

“ドカン!”

樹璃は、拳でテーブルを殴った。

 

<A子>“オオッと!今度は神崎姫子が長い剣を出した!”

<B子>“ハー、どうせならもっと長いの出したらどうですかねぇ。アニメなんだから。”

<C子>“マイクが付いているとか。”

 

<冬芽>「しかし…決闘を行うかどうかは、世界の果てが決めることだ。我々の権限では、どうする事も出来ない。…ここは押さえろ、樹璃。」

<西園寺>「それよりも何故、奴らが決闘に参加することを、世界の果ては認めたのだ?」

<七実>「そーよ!そもそも始めからアイツ等を決闘に参加させなければ良かったのよ!」

<幹>「…世界の果てに、何か考えがあるのでしょうか?」

 

<A子>“オオッと!なんと神崎姫子の剣は、ながーく伸びたァ!”

<B子>“ほう。やっぱりアニメなんですなぁ。いっそのこと、ズーッと伸びて相手を追い掛けると楽でいいですなぁ。”

<C子>“面白いですね!どこまで伸びるんですかね?”

 

他の3人が話す中、冬芽は樹璃の方へ状態を寄せて彼女の耳元で言った。

<冬芽>「…樹璃、気持ちは判るが、ここは押さえろ。…変な気を起こすなよ。」

樹璃は冬芽の忠告に応えなかった。腕枕をしながら、ハニー達の決闘の映像を観ていた。

 

<A子>“なな、ナントっ!神崎姫子の剣は、グネグネと曲がってナンボでも伸びるぅ!”

<B子>“ほほう。しかしこれじゃあ剣なんて使わなくても良いですなぁ。”

<C子>“あのー、でもコレっていいんですか?反則とかじゃないんですか?反則ないの?”

 

冬芽は、樹璃の態度に危機感を覚えた。

<冬芽>「…樹璃!」

樹璃は、応えなかった。

 

<C子>“あのー、反則ないの?”

 

次回 第13話『情熱の舞い』

 
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