少女革命ウテナVSキューティーハニー

〜デュエリスト・メモリーズ〜

*はじめに

  • この作品は、「少女革命ウテナ」「キューティーハニー(初代TV版)」の両作を良く御存知の方でないと、内容を理解できない個所が多々ございます。誠に申し訳ございませんが、ご了承の上よろしくお願いいたします。筆者より
  •  

    『第一話 愛の転校生』

    《黒薔薇の決闘場》

    ウテナは長い長い螺旋階段を上がり、入り口のアーチをくぐった。縦横規則正しく並んだ机の上には、各々黄色い傘が開かれて置いてあった。

    〈ウテナ〉「…君は…?」

    〈茎子〉「この黒薔薇にかけて誓う。この決闘に勝ち、薔薇の花嫁に死を!

    〈ウテナ〉「そんな…」

    茎子は剣を上体に構えた。

    〈茎子〉「この冬芽様の剣でお前に勝つ!」

    〈ウテナ〉「冬芽の剣?」

    〈茎子〉「私と冬芽様の未来の為、私は闘う!さあ、剣を抜け!」

    アンシーは赤いフリルの付いた日傘を差した。茎子は不敵に笑った。

    アンシーが身体を後方に反ると、彼女の胸から光が放たれ、剣の柄が飛び出した。ウテナはアンシーの体を支えながらその剣を引き抜いた。

    〈ウテナ〉「世界を革命する力を!!」

    〈茎子〉「イャアアアッ!」茎子が飛び掛かる!ウテナはその一撃目を捌いてかわした。

    〈ウテナ〉「どうして君が!!」

    〈茎子〉「七実がどんな女か、お前も知っているはずだ!あいつは私のことを人間とは思っていない!そうと判っていながら、私はアイツに仕えて来たんだ!」

    〈ウテナ〉「でも判らない。どうして君が冬芽の剣を?」

    〈茎子〉「お前が判る必要はないっ!」

    茎子の走る勢いで、黄色い傘が舞い上がる。ウテナはその二撃目を剣で受け止めた。激しい剣の衝突で火花が飛び散る!そのまま茎子は凄い力でウテナを押し込んできた。ウテナも必死で押し返してツバ競り合いとなる。

    〈茎子〉「この剣に勝てるか?天上ウテナ!この冬芽様の剣に!

    この世で最も尊い剣に?!」

    踏ん張るウテナの額から汗が流れた。アンシーは静かに闘いを見守っている。

    〈茎子〉「この剣で私は大いなる力を手に入れ、

    …そしてあの女を殺す!

    私と冬芽様の間に立ち塞がるあの七実を!!」

    茎子の気迫で、ウテナは押し返されてしまった。間を入れずに茎子の三度目の攻撃がウテナに襲い掛かる!黄色い傘が一つ巻き込まれて真っ二つに切り裂かれた。

    しかしウテナは宙返りでその場を逃れていた。

    〈茎子〉「…そうか。本当の悪い虫≠ヘ七実…」

    ウテナは茎子より離れて床に降り立った。

    〈茎子〉「…なんだ。あの女、悪い虫≠セったんだ…」

    茎子は剣を構え直すと、ウテナに飛び掛かった。

    〈茎子〉「イャアアアッ!」

    ウテナは体勢を低くして、一気に飛び出した。かなり離れた茎子に向かって、地を這う様に、目にも止まらぬ速さで飛び掛かる!

    〈ウテナ〉「ハァアッ!!」

    すれ違い様、ウテナは茎子の黒薔薇を切り裂いていた。茎子は意識が途切れ、その場で倒れた。

    上空に無数の黄色い傘が、風に乗って飛んでいった…

    残された床一面には、赤い人型の跡が柄模様のように描かれていた。茎子はその一つに重なるように横たわっていた。

    《学園の暗闇に…》

    そこは港の近くの丘を削った広大な敷地にあった。巨大な城のシルエットが黒々とそびえ立ち、夜空の星々を遮っている。その中央からは塔がさらに高く空に伸びあがって見えていた。人気のない今は、何か異様な妖気を放っている雰囲気があった。

    帽子のつばを指で押し上げて、男はその塔を見上げた。テーラードのジャケットを羽織っている。中は紺のボディースーツなのだろうか。首からシューズに至るまで一体になっている様に見える。街灯の下でも光を吸う様な黒さであった。猫のように帽子のつば影でも眼が光っている。

    男が右手の人差し指と親指を鳴らして合図をすると、あたりから何人かの同じ様な影が現れた。足音を殺して建物の方へ向かって歩き始める。

    門の前にたどり着くと、彼らは一瞬で四方へ飛び去った。

    世界を革命する力とは何だ?

    世界を革命する力とは何だ?

    世界を革命する力とは何だ?

     

    〈香苗〉「…私は暁生さんを愛していたんです…」

    香苗は、うつろな眼を宙に漂わせていた。

    〈香苗〉「…あの人は子どものように無邪気で、…逞しくって…優しかった…」

    〈影の女・A〉「…そう…」

    香苗に寄り添うように、女が横たわっていた。長い髪の隙間から鼻を覗かせて、香苗の髪の香りを嗅いでいる。

    〈香苗〉「…星を観るのが大好きで、…あの部屋のプラネタリュウムで…二人っきり…

    いつも星を観ていたの…」

    女は香苗の髪を優しく撫でた。細長い指は真っ白で、尖った爪には真っ青なマニキュアが光っている。

    〈香苗〉「…幸せだった…婚約することに迷いはなかった…あの人は…私が待ち続けた

    …王子様だった…」

    女は香苗の白い首筋あたりを優しく愛撫した。垂れ下がる女の髪が、香苗の胸に擦れて心地よい感触であった。

    〈香苗〉「…でもそれから…何もかもが狂い始めた…彼には妹がいたの…彼のただ一人の身内だったから…私はあの子とも…仲良くしようと思っていたわ…」

    女の長い指は、香苗の手に伸びて、手のひらを合わせて指を絡ませた。香苗は女の手を強く握った。

    〈香苗〉「…私は…あの子に色々と気を遣ったつもりだった…でも…あの子は…いつも人形のように微笑むだけで…私を…姉さん≠ニは呼んではくれなかった…」

    女は黄緑のシルクブラウスのボタンを外し始めた。カッティングされたボタンが動くとそのたびに瞬いた。香苗はそのまま女の動きに任せた。

    〈香苗〉「…あの子は…自分のお兄さんが…私に奪われると…思ったんだわ

    …私が…暁生さんと…一緒になることを…許せなかったんだわ…」

    女はゆっくりと香苗の耳元に唇を寄せた。

    〈影の女・A〉「…とても…辛かったのね…」

    香苗の頬にキスをした。香苗の眼から大粒の涙がポロポロと流れた。身体を小刻みに震わせて泣いている。女は香苗のスカートの脇ファスナーをゆっくりと降ろして手を滑り込ませた。

    〈香苗〉「…アァッ!…」

    香苗のスカートの中は、既に熱い湿気で満たされていた。いつのまにか胸の下着も外されていて、女はそれを取り除くと唇を押し当てた。熱いうねりが香苗の身体を巡り始めた。

    〈香苗〉「ある人に言われた。

    貴方は世界を革命するしかない≠ニ!

    決闘に勝ち、世界を革命する力を手に入れろと!

    そうすれば、薔薇の花嫁は思うがまま…」

    一糸まとわぬ身体となった香苗に、女は足を交互にずらして折り重なった。

    〈香苗〉「アアァァーッ!!」

    女の激しい動きに、香苗は身を任せた。滑った股間を中心に熱気が全身に広がり、汗が噴き出し始めた。

    〈香苗〉「薔薇の花嫁はあの子だった!

    私はあの子を殺して…あの人と、

    …あの人と二人だけの世界を作りたかった!…作りたかった!!

    …アアァァーッ!!」

    香苗は最後の言葉を吐き出すと、その場で大きく身体を反らせて痙攣していたが、やがて満たされたように果てた。

    香苗の寝顔には、涙の跡が残っていた。

    〈梢〉「…幹は…あたしの…星の王子様…誰にも汚させはしない…」

    はうつろな眼を宙に漂わせている。眼は潤んで、光が揺らめいていた。既に服は脱がされていた。細かい汗の粒が浮かび、肌の曲面を流れていく。女が梢に重なって愛撫すると、彼女はその度に身体をヒクヒクと震わせた。

    〈梢〉「…幹は…あたしが男の子とジャレ合っていると…嫌がるの…悲しそうな眼で…

    あたしを見るわ…だからあたし…幹の嫌いなタイプの子とばかり…付き合うの…」

    女の髪が、足の方に降り始めると、さらに梢は大きく身体を震わせた。

    〈梢〉「…でも幹は…あたしのもの…あたしだけのもの…女でも…男でも…幹に手を出す奴は

    …絶対に許さない…絶対に…許さない!

    梢は女の行為に身をよじりだした。濡れた肌と肌が、ネットリと絡み合う。

    〈梢〉「ある男が言った!

    貴方は世界を革命するしかない≠チて!

    決闘に勝って、世界を革命する力を手に入れろって!

    そうすれば、薔薇の花嫁は思うがまま…」

    女が最も熱い個所を責め始めると、梢はとうとう声を上げた。

    〈梢〉「アァッ!」

    梢の身体からおびただしい汗が流れ出た。女の動きが激しくなった。

    〈梢〉「でも幹は…幹の心は…あの女のものだった…あの女の…中身も知らずに…

    幹は…自分の夢を…あの女に…懐いていたの…」

    女の動きに応じるように、梢は身体を動かした。

    〈梢〉「薔薇の花嫁はあの女だった!

    あたしはあの女を殺して、

    幹と…幹と二人だけの世界を、

    二人だけの世界を作りたかった!作りたかった!!」

    梢の意識が登り詰める寸前に、女は動きを止めて梢の顔を見た。梢は小刻みに身体を震わせている。

    〈梢〉「!…ち、違うの。あたしはこんな事を…したいんじゃないの…」

    瞳は正体がないのに、梢はある一点に眼を見開いた。何かに脅えるように、両腕で後ろに下がった。女は指を梢の中に差し込んだ。

    〈梢〉「アッ!アアァ〜ッ!!」

    梢は両腕を着いたまま、大きく上体を後ろに反らせた。全身に力が入り、今にも頭が後ろに着いてしまいそうになる。女は梢の片足を自分の肩に乗せて、大きく足を開かせた。そのまま梢の身体をに腰をあてがって前後に揺すった。

    〈梢〉「アッ!アッ!アッ!アッ!アッ!アッ!」

    女が腰を前に突き出すたびに、梢は声を上げた。上体は寝かされて、腰はされるがままに浮いている。女の動きが素早くなった。

    〈梢〉「…ミ…ミキ…幹…幹!幹ぃ〜っ!!」

    彼女の最後の声は身体から溢れ出し、梢はその場で満たされたように果てた。

    梢の身体をベッドに寝かせると、女は立ち上がった。肌は人とは思えないほど真っ白であったが、美しい身体だった。肩幅は広く、しなやかに長い手足。おそらく9頭身位のバランスである。それでいて胸と腰には豊かな膨らみがあった。

    〈影の女・A〉

    「フッフッフッ…この幼さで、こんなに快楽を知ってしまっていてはねぇ…」

    顔に被った髪を両方に分けて後ろへ流した。薄暗い部屋でも浮かび上がるような青い髪だった。顔は真っ白で、閉じられた長いまつ毛の上に真っ青なアイシャドウが引かれていた。先程の激しい交わりにも関わらず、開かれた瞳は恐ろしく静かで黒々としていた。

    〈影の女・A〉「…今一つ確証が掴めないわね。やはり乗り込むしかないか。」

    〈影の女・B〉「…はい。」

    いつのまにか女の後ろに巨大な影が立っていた。その後ろには、5台のシルクシーツの掛かっただけのベッドがあり、それぞれに全裸の女の子が寝ていた。部屋の窓はなかった。天井より薄青い電灯がぶら下がっていて、それぞれのベッドを照らしていた。

    しかしよく眼を凝らすと、その薄暗い光の隅に何人かの人間の足が見えていた。紺のブーツのようであった。

    〈影の男〉「この女達はどうしますか?」

    〈影の女・A〉「記憶を消して、それぞれの場所へ戻せ。それまでは…好きにするといい。」

    男の口が醜く歪んだ。

    〈影の男〉「…ありがとうございます。」

    ベッドの周りから、男達の下卑た笑いが静かに響く。黒い影が、ベッドの女の子達を覆った。

    〈影の女・B〉「…よろしいのですか?あんな事をさせては…」

    女は目を閉じて、ニヤリと不敵に笑った。

    〈影の女・A〉「奴等には、今後も動いてもらわねばならない。

    …オスには最高のエサさ。…私は良く知っている。」

    そして黒々とした眼を開いて、背後の影を見上げた。青い爪の細長い指が、影の頬のあたりをソッと触った。

    〈影の女・A〉「フフフ…でも私は、そういうお前が好きだよ…。」

    女は、母親のように優しく笑った。

    《密会幹部会議》

    が寝室に戻ると、隣のベッドでは梢が寝息を立てていた。

    〈幹〉「何だ戻ってたのか。心配して損しちゃったな。」

    妹の静かな寝顔を、幹はしばらく見つめていた。「このまま静かな子だったら…」とフッと思った。おやすみのキスをしようと唇を近づけた時、外への扉が開いていることに気がついた。庭から風が吹き込んで、カーテンを揺らしている。

    〈幹〉「まったく。戸締まりぐらいはキチンとしてくれよな…。」

    幹は囁くと、扉を閉めようとその場へ行った。扉から少し外の庭を覗うように、幹は辺りを見回した。すると、幹に気付かれぬように茂みの中からゆっくりと黒い影が現れた。飛びかからんとしたその時、いきなりその背後から羽交い締めにされ、何者かに口を塞がれてしまった!はもがくが、その場で音を立てる訳にはいかなかった。一瞬で首の骨を口を塞いだ腕でへし折られてしまった。帽子がその男の頭から滑り落ちた。横たわった男は、その場でかき消されるように姿を消してしまった。

    倒した相手の消える様子を、冬芽は静かに見降ろしていた。幹はこの出来事には気付かず、扉の鍵を閉めた。冬芽は静かに茂みに消えて行った。

    〈暁生〉「…なるほど。姿が消えてしまったか。」

    暁生はベッドの上で上体を反らし、うす紫の髪を右手で後に撫で付けた。そしてその手を口にやって煙草の煙を吹いた。灰色がかった紫の煙が、褐色の顔の上を漂っている。指先には深いモカ茶のシガレットが挟まっていた。

    〈冬芽〉「このところ、学園近辺で謎の暴行事件が起こっていました。被害に遭った生徒達は、脅えきって何も話そうとしません。あの様子では、知っているのは俺だけ。他の生徒会メンバーはまだ感づいていないでしょう。」

    同じベッドの横で冬芽は、同じく上体を反らして赤い髪を右手で後に撫で付けた。そしてその手は、暁生の右手に伸びた。

    〈暁生〉「彼らは既に、学園内に何度も侵入している。資料室や各部屋も荒らされた形跡があった。」

    冬芽は暁生の指から抜き取った、モカ茶のシガレットをくわえた。

    〈冬芽〉「グッ!ゴホッ!…なんですかこれは?」

    冬芽は灰色がかった紫の煙にむせいだ。

    〈暁生〉「薬がキツ過ぎたかな?…まだ未成年の君には。」

    暁生は冬芽の右手に手を重ねて、モカ茶のシガレットを抜き取った。

    〈暁生〉「フッフッフッフッフッ…君の可愛いところを知っているのは…俺だけだね。」

    灰色がかった紫の煙を、吸い込んで頭上にゆっくり吐いた。

    〈冬芽〉「…意地悪な人だ。」

    冬芽の顔は、前屈みになって赤い髪で隠れた。

    〈暁生〉「彼らは核心に迫ってきた。…しばらくは女の子と遊んではいられんぞ。」

    〈冬芽〉「そのようですね…いったい彼らは何者なんですか?」

    暁生は宙を観つつ、また煙をゆっくりと吐いた。

    〈暁生〉「…最高の相手だ。君が全身全霊で係らねばならない程のな。」

    〈冬芽〉「ほう…それは…」

    冬芽は興味が出てきた様子であった。

    〈暁生〉「…そして君達を…そして彼女を…最高のステージへ導くだろう…」

    赤い髪の隙間より、冬芽の眼はキラリと光った。

    〈冬芽〉「でも…もし彼女が勝てなかったとしたら?」

    暁生はニヤリと不敵に笑った。

    〈暁生〉「大丈夫だ。手は打ってある。」

    《高貴な二人》

    それは、昔々のお話です。

    あるところにお父様とお母様を亡くし、深い悲しみに暮れる幼いお姫様がいました。

    そんなお姫様の前に、白馬に乗った旅の王子様が現れます。

    凛々しい姿、優しい微笑み。

    王子様はお姫様を薔薇の香りで包み込むと、そっと涙を拭ってくれたのでした。

    〈王子様〉「たった独りで、深い悲しみに耐える小さな君。

    その強さ、気高さを、

    どうか大人になっても失わないで。

    …今日の思い出にこれを。」

    王子様は薔薇の刻印の入った指輪を、お姫様の薬指にはめました。

    〈お姫様〉「私達、また会えるわよね?」

    〈王子様〉「その指輪が、

    君を僕のところへ導くだろう…」

    王子様のくれた指輪は、やはりエンゲージリングだったのでしょうか…

    青々とした空に、太陽の光が溢れるような朝であった。

    海辺から潮の香りが混じった涼しい風が吹いて来る。そこは、港近くの丘を削った広大な敷地にある学園だった。初等、中等、高等、大学部と校舎があり、その前部にある塔はこの町を見渡せる高さで、この通学路からも良く見えている。

    丘を登る石畳の坂道を、人形のようにスマートな学生達が何人も歩いている。友達同士で大きな声を掛け合い、所々で元気な笑い声が聞こえる。

    〈若葉〉「ウッ・テッナ ー!」

    〈ウテナ〉「うわっ?!」

    後ろから若葉に飛びつかれ、ウテナは前のめりに倒れそうになるのを踏ん張ってこらえた。

    〈若葉〉「おはよう、ウテナ。」

    〈ウテナ〉「お、おはよう若葉。」

    ウテナはちょっと疲れたような顔をした。若葉はキョロッとした眼でウテナにしがみついている。

    〈アンシー〉「おはようございます。若葉さん。」

    〈若葉〉「おはよう、アンシー。」

    ウテナの横にはアンシーがいる。握る手を肩にかけてヤクザ持ちするウテナと、両手で前に下げるアンシー、そして若葉。いつもの組み合わせである。

    〈アンシー〉「今日はいいお天気ですよね。」

    おばさんのような話題を振るアンシー。

    〈若葉〉「…そうよねぇ…あっ、今日私お弁当作ってきたの!中庭で一緒に食べようね!

    ねぇーウテナァ!」若葉は強くウテナにしがみついた。

    〈ウテナ〉「ハイハイ…」

    ウテナはまるで若葉をあやしているようだった。

    ウオォォォォー…

    彼女たちの背後から、何やらオートバイの排気音が聞こえてきた。振りかえると、坂道を一台のバイクが走ってくる。750CC(ナナハン)だろうか?オールドファッションなデザインであった。ヘッドライトにカバーはない。乗っているライダーはオープンフェースのヘルメットにゴーグル、スーツは白と赤のツートーン。首から黄色のマフラーがなびいていた。

    グウォォォォー…!!

    〈ウテナ達〉「うわぁっ?!」

    そのバイクはたちまちウテナ達の横を通り過ぎて、そのまま学園の門を入っていった。

    〈ウテナ〉「な、なんだぁ?」

    ウテナは走って校門を入った。若葉とアンシーもこれに続いた。

    見ると、そのバイクはアーチの前で止まった。軽い身のこなしでバイクから降りたライダーは、ゴーグルとヘルメットをはずした。黒く長い髪がスルッとなびく、女の子の様であった。

    〈アンシー〉「あら、あれが大奥カットですね。」

    〈ウテナ〉「おっ、大奥カットぉ?」

    ウテナには何のことか判らなかった。再び黒髪の女の子を見る。

    〈樹璃〉「おい、お前!」

    いきなり樹璃の鋭い声がした。見ると物凄い勢いで女の子に近づいている。

    〈黒髪の女の子〉「ちいーす!」

    黒髪の女の子は実に軽い調子で樹璃に挨拶をした。

    〈樹璃〉「貴様、バイク登校は禁止のはずだ!

    どこの者だ?学年、組、学生番号は?!」

    〈アンシー〉「あらあら。縦ロールと大奥カットの競演ですね。」

    〈ウテナ〉「た、縦ロールと大奥カットの競演?」

    〈若葉〉「…縦ロールって、樹璃さんよね。」

    〈黒髪の女の子〉「エー、そうなんですかぁー?あたし、今日始めてだったモンでェー…」

    この女の子は、樹璃の恐ろしさを知らない。

    〈黒髪の女の子〉「あのー、駐車場ってどこなんですかぁ?

    このバイク、どこへ置けばいいんでしょー…」

    樹璃は女の子の反応が気に入らなかった。

    〈樹璃〉「…転校生か。始めてなら仕方がない。しかしそうであればなお、登校前に学校規則に目を通しておくべきだ。一応、この事は報告しておく。…以後、気をつけるように。」

    話し終わると樹璃はフイッと背を向けてその場を去った。機敏な動きが男性的である。

    〈黒髪の女の子〉「はーい、すいませーん。」

    女の子は可愛く舌を出して、ウテナ達の方を見て笑った。

    〈黒髪の女の子〉「ねぇ、このバイクどこに置いたらいいの?」

    〈つづく〉

    次回『第2話 舞踏会の夜に、愛は…』

     

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