第11話『デュエリストハニー』

《快楽人形》
《走る少女》
《ハニー決闘場へ》
《VIP席の男》
《ハニーフラッシュ!》
《奇襲》
《折れた剣》


《前回までのあらすじ》

「ボクは、王子様になる!」「天上ウテナ」は、密かな思い出と決意を胸に名門鳳学園中等部に入学した。男子の制服を着る変わった女の子だった。ある日彼女は生徒会が行っている『決闘ゲーム』に巻き込まれ、『薔薇の花嫁』と呼ばれる「姫宮アンシー」を守る為に決闘場で闘う事になってしまう。だがその類まれな能力で彼女は決闘を挑んでくる生徒会メンバー達、「桐生冬芽」「西園寺恭一」「有栖川樹璃」「薫幹」「桐生七美」の挑戦をことごとく退けてきた。『決闘の勝者』には、『世界を革命する力』が与えられるといわれているが、果たして・・・?

最近は、その挑戦者が意外に人物になってきていた。「鳳香苗」「薫梢」「高槻枝織」「石蕗美蔓」「篠原若葉」「苑田茎子」・・・。彼らの胸には、『黒薔薇』がつけられていた。更にその陰で、謎の者達が暗躍をしていた。決闘に関わった生徒達を監禁し、尋問を掛け、他の生徒達にも暴行を加えていた。彼らもまた『世界を革命する力』を求めてやってきたのだった。転校生として、謎の女生徒2人が侵入してきた。これを受け入れた鳳学園理事長代理である「鳳暁生」は、対抗手段としてある一手を講じた。

次の日、その女の子は鳳学園に現れた。彼女の名は、「如月ハニー」。冬芽は彼女と謎の転校生2人の関係を探るべく、舞踏会を開催する事にした。華やかな衣装で舞踏会の注目を集めたハニー。しかし「神崎姫子」と「神武子」の登場と共に会の雰囲気も壊されてしまった。彼らに異常な危機感を抱いた西園寺は、真剣で切りかかるが巨体の武子の動作一つで会場の外まで吹き飛ばされてしまった!ハニーは、ウテナ達と同じ東館の女子寮に入室した。続いて鳳学園では「アルフォンヌ先生」「常似ミハル先生」の恩師達も登場(笑)!そして西園寺いるの道場では、謎の道場破りが彼に立合いを挑んできた!一方、お昼休みに中庭で楽しく昼食を採るウテナ達。突然、ハニーが理事長室に呼び出され、ウテナとアンシーもついて行く。理事長室では、姫子と武子が、暁生に『決闘ゲーム』参加の承認を迫っていた。暁生は、彼女達に研究室の「御影草時」を訪ねる様にと、『薔薇の刻印』の入ったメッセージカードを渡す。同じ部屋でウテナ達とバッタリ遭遇するが、今回は何も起きなかった。

教室に戻ったハニーは、授業に退屈して学園脱走を企てる。ミハルとアルフォンヌの妨害をかい潜って、大胆にも学校を出てしまった。一方姫子と武子達は、暁生に指定された場所に来ていた。遺体焼却場で、彼女達は『黒薔薇の刻印』の入った指輪を手に入れていた。学校に戻ったハニーは、ウテナとバスケットボールで対決。無敵だったウテナを圧倒する。下校しようとする時、再び姫子達と出くわすが、何事もなく去ろうとした武子が落した「黒薔薇の刻印」のは行った指輪を、若葉は何気なく拾って返してしまう。校門を出時、ハニーにまた来訪者があった。訪ねてきた「早見青児」より、ハニーは『王子と魔女の物語』を聞く。続いて東館に帰ったハニーを待っていたのは「早見団兵衛」「早見順平」!彼らも、そのままウテナ達の東館に居候してしまった。その世、ハニーはウテナが鳳学園に来た理由を彼女の口から聞く。

次の日、ハニーもウテナの真似をして男子制服に着替えて登校する。しかし学園の校門には、人だかりが出来て中に入れない。見ると、「早見直次郎」が聖パラダイス学園の生徒達を連れて乗り込んでいたのだった。直次郎達に帰るように言うハニー。「足手まといになる」という理由を示す為に、ウテナを相手にケンカをする者を集う。結局パラダイス学園男子生徒達と鳳学園生徒会の大喧嘩となったが、これは生徒会の圧勝となる。枝織に焚き付けられ、樹璃はハニーにフェンシングでの立会いを迫る。その昼休み、幹と共にウォーミングアップをする樹璃の元にフェンシングスタイルをした謎の女が現れた。樹璃は自信満々で挑んだが、惨敗に終わる。

そして午後の授業中、アンシーがハニーから託ったというメッセージカードをウテナ達は開くと、何と「学園脱走」の指令が書かれていた(笑)!アンシーの仮病をきっかけにウテナ達は教室を脱出、ハニーと合流し、ミハル、アルフォンヌ、「みょうばん」の妨害を潜り抜けたかに見えたが、結局大胆な脱走劇になってしまった(笑)。早見一家と梢と合流したウテナ達は、樹璃御用達のボーリング場にて大ボーリング大会。ここでウテナ対ハニーのボウリング対決での第2ラウンド。結局&直次郎ペアが最下位となり、梢はみんなのサ店代を払う羽目になった。帰りにプリクラで記念撮影をし、一時学園に戻ったウテナに待ち受けていたのは、『決闘ゲーム』の案内状だった!

ウテナへの次の挑戦者は、なんと謎の転校生「神崎姫子」だった!結果は一瞬のうちにつき、ウテナは何も出来ないまま胸の薔薇を散らされ、「薔薇の花嫁」であるアンシーは姫子の手に落ちてしまった。失意のウテナを、ハニーは夜のツーリングに誘う。明朝、アンシーは鎖につながれて姫子と学校に現れる。彼女を助けようとした直次郎は、武子と組み合いになって両腕を負傷。何も出来ず呆然とするウテナが、昼休みに冬芽に連れられ来た生徒会室には、「特別委員」として招かれたハニーがいたのであった。

《快楽人形》

<アンシー>「アッ…」

<アンシー>「アッ…」

<アンシー>「アアッ…」

アンシーの口からは、愛撫に酔う声が漏れている。一糸まとわぬ彼女の褐色のしなやかな肉体は、汗と体液で濡れ、艶を帯びて輝いている。その上にのしかかる大柄な白い豹。アンシーとは対照的に、抜けるような白い肌。豊かな乳房はアンシーの頬を撫で、プルシアンブルーの巻き毛は、彼女を包むベールのようだった。コバルトブルーのアイシャドウ、鋭く深く黒々とした瞳。神崎姫子だった。彼女はアンシーのか細い両脚を開いて、自分の長い脚を交互にはさみ込んでいる。ゆっくりと腰を揺すりながら、股の辺りを擦り合せていた。

時折姫子は頭を下げて、アンシーの首筋や耳の辺りに舌を這わせたり、キスをする。アンシーの眼差しは、すでに姫子の深い瞳に吸い込まれていて、夢見る様に虚ろに宙を見つめていた。姫子の唇がアンシーの唇に重なると、ためらいなく受け入れ、舌を絡ませ何度も何度もお互い体液を吸い合った。

<アンシー>「アッ…アアッ…」

姫子の唇がぬめりを引きながら離れると、アンシーの小さな舌は物欲しげにそれを追った。姫子は次のキスをじらしながら、アンシーの耳元に甘い息を吹きつける。アンシーはその心地よさに身をかすかに震わせた。

<姫子>「…お前の力とは…なんだ?」

姫子の下は、アンシーの耳の中にも入っていく。

<アンシー>「アア…」

アンシーの身が、また震える。

<姫子>「『世界を革命する力』とは、なんだ?」

アンシーは姫子に瞳を奪われながらも、言葉を発さない。姫子は擦り合わせていた下半身を離すと、長い指先をアンシーの濡れた秘部に滑り込ませた。

<アンシー>「アア〜ッ!」

アンシーの体が一瞬硬直し、両脚が強く姫子の腕を締め付ける。しかし姫子を受け入れ、震えながら僅かに開かれた。ゆっくりとその指は、アンシーのぬめりを撫で付ける。

<アンシー>「ク…クウッ…」

指の動きに感じながらも、やや身をよじってこらえていた。だが秘部は、姫子の指のフシに強く吸い付いている。

<姫子>「…答えなさい。『世界を革命する力』とはなんだ?」

指の動きは速くなり、人差し指も入って交互に素早く出入りを繰り返した。

<アンシー>「アアッ!アッ!アッ!アッ!アッ!アッ!」

アンシーの体が、小刻みに揺れ動く。姫子の指は交互に動きながら、アンシーのさらに敏感なところを時折攻める。

<アンシー>「アアッ!アアッ!アアッ!アア〜ッ!」

そのたびに、アンシーの身体は激しく揺れ動いた。

<姫子>「答えなさい!」

<アンシー>「アッ!アッ!アアッ!アアッ!アッ!アッ!」

アンシーはおびただしい汗を流しながら、声を上げ続ける。しかし姫子の問いには答えなかった。

<姫子>「…言わないのか。」

姫子の指の動きは、人では成し得ない程の素早さになった。

<アンシー>「アア〜ッ!アアアアアアアアア…!」

アンシーは体を激しく揺らし、もだえゆがませて声を上げ続けた。

<アンシー>「アッアッアッアッ!アア、アア、アア、…」

途切れることなくアンシーの声は、暗い部屋に響き続ける。

<姫子>「言え!お前の力とはなんだ?!」

態勢を変えられたアンシーは、四つん這いになってお尻大きく突き出していた。姫子は、さらに片方の指も彼女の後ろの穴に差し込んだ。

<アンシー>「アッ!アアーっ!」

後ろの穴に入った指も、同じく素早く動き始めた。

<アンシー>「アッ!アアッ!アッ!アッ!アッ!」

涙を浮かべ、よだれもたらしながら、アンシーは姫子の激しい攻めを受け続けた。

<姫子>「言えっ!言わないかっ!」

さらに姫子の攻めは激しくなった。

<アンシー>「アアッ!アウア!アウアウア・・・!!」

アンシーの声は、悲鳴のように高鳴った。

姫子の表情が、やや険しくなった。差し込んだ両手の指を引き抜く。

<アンシー>「アア・・・」

秘部からおびただしくあふれ、ぬめった体液が姫子の指に付きまとう。激しい高鳴りを閉ざされたことに、アンシーは身を震わせた。姫子は両手を大きく掲げると、彼女の背中に両手の爪を立てた。

<アンシー>「アアア〜ッッ!」

激しい痛みとともに、アンシーの身に再び高鳴りが襲った。姫子はゆがんだ笑みを浮かべて、突き立てた爪でアンシーの肌を引っかいた。褐色の肌からピンクの皮膚がかすかに覗き、赤い血がにじみだした。

<アンシー>「アアアウ〜アウアウ・・・!!」

その激痛に激しく身悶えながら、さらにアンシーは高みに登りつめた。姫子の右手が再びかざされると、アンシーの突き出されたでん部を激しく叩いた。

“バン!”

激しい衝撃に全身の汗が飛び散り、はたかれた下半身は引っ繰り返り、アンシーは仰向けになった。次にかざされた左手は、アンシーの頬を叩いた。

“パァン!”

アンシーの脳を激痛が揺すり、口の中は歯が食い込んで血が出るほどだった。身体中の血が沸騰するような刺激の中、アンシーは今までに体験した事のない高鳴りの中果てた。ヒクヒクと身体を震わせ、顔にはかすかな笑みさえ浮かんでいた。

姫子は、しばらくアンシーのその様を見つめていた。体液で濡れた青い髪は、艶を帯びた白い肌にまといついている。

<姫子>「・・・この身体には、魂がない。ただの抜け殻だ。」

ベッドのシーツから下りると、そばに立っていた武子に手をあげてバスタオルを求めた。無言でその場に立っていた武子は、手に持っていたタオルを姫子に渡した。

<姫子>「この女の魂は、どこか別のところにあるようだ。・・・これでは、真実に近づけないな。」

<武子>「はい。」

姫子はひとつため息を突くと、シャワールームへ向かった。

<姫子>「後でその子も洗っておあげ。」

<武子>「はっ。」

《走る少女》

“キィーン、コーン、カーン、コーン・・・”

終礼の終わりの鐘が鳴ると共に、ウテナは教室から飛び出した。

<ウテナ>「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!・・・」

他の教室から出てくる生徒達の間をすり抜け、階段駆け上がり、高等部の校舎への通路を走った。ウテナの息がやや乱れ始めた頃、目的の教室についた。眼の前の出入り口から、樹璃が出てきた。彼女は、こちらに走って来るウテナにすぐ気づいた。

<ウテナ>「先輩!」

璃には、ウテナが慌てている理由がわかっていた。

<樹璃>「彼女は、少し前に教室を出た。ちょうど下足場ぐらいじゃないかな。」

ウテナは、下足場へ向かった。

<ウテナ>「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

途中階段を一段一段降りるのさえわずらわしくなり、一気に10段ほど飛び降りた。

<ウテナ>「ハッ!」

一階の下足場についた。やや他の生徒達で込み合っている中をかき分け、ウテナは目当ての人を探した。彼女は、こんな人ごみの中でも目立つのですぐに見つけられる。

<ウテナ>「ハニーさん!」

声に気づいた金髪の女の子は、ウテナの方を振り返った。

<ハニー>「あら、ウテナちゃん。」

ハニーにも、ウテナが慌てている理由がわかっていた。

<ハニー>「届いているわよ。・・・コレね?」

自分の靴箱から、メッセージカードを取り出した。その封筒には、「薔薇の刻印」が押されていた。


薔薇の花嫁とエンゲージする者へ


本日放課後、決闘広場で待つ

<姫子>「フッフッフッ・・・。来たか!」

姫子は、「薔薇の刻印」のついたメッセージカードを破り捨てた。

    影絵劇場カシラAへ!☆

《ハニー決闘場へ》

<ウテナ>「ハニーさん危険です!行くのはやめてください!」

スタスタと歩くハニーの後を、ウテナは追いかけた。浮ついたウテナの態度と違い、ハニーには全く緊張感がなかった。

<ハニー>「どうしたの?随分と心配なのね。」

ハニーは封筒の中から「薔薇の刻印」のついた指輪を取り出し、自分の左手の薬指につけた。

<ウテナ>「ハ、ハニーさん。あの、信じられないでしょうけど、コレって『真剣勝負』なんですよ!」

ハニーは、ウテナの言葉よりも自分の指につけた指輪に気が行っている様だった。

<ハニー>「そう?私、『真剣勝負』の経験だったら、ウテナちゃんよりずっとあるわよ。」

ハニーは自分の髪に手をやりながら、少し得意気に言った。

<ウテナ>「い、いや、あの、ケンカじゃなくって、真剣!本物の剣で闘うんですよ!下手をしたら死んでしまいますよ!」

ウテナは、思わずハニーに右腕にしがみついて、彼女を止めてしまった。ハニーは、落ち着いた顔でウテナの方を振り返った。

<ハニー>「・・・言ったでしょ?私は、ウテナちゃんよりずっと経験があるって。」

ハニーは、全て承知しているらしい。本物の剣で戦う決闘場へ、平然と向かうハニー。ウテナは、彼女に何か得体の知れない迫力を感じていた。掴んでいた腕を、ゆるめた。

<ハニー>「アー、・・・所で決闘場ってどこカシラ?」

彼女は、その場所も知らずにスタスタ歩いていたのだった(笑)。

<ウテナ>「・・・僕が案内しますよ。」

校舎裏の庭にある、「立ち入り禁止」の門。決闘場への入り口だった。そこには、先回りをしたのか樹璃が待っていた。

璃>「あきれたな。・・・君は丸腰で決闘に挑むつもりだったのか?」

璃は、手にしていた自分の剣をハニーに差し出した。ハニーは、なぜかキョトンとしてその剣を受け取った。

<ハニー>「あ、・・・ありがとう。」

<樹璃>「決闘の意味は・・・わかっているか?」

不用意なハニーに、璃は確かめるように顔を覗き込んだ。

<ハニー>「ええ、さっきウテナちゃんから聞いたわ。」

璃>「なら・・・いい。」

璃はハニーに道を譲り、背後の門を示した。

璃>「あの門の取っ手を握れば、決闘場への扉が開く。」

<ハニー>「そう。ありがとう。」

ハニーは、ためらうことなく歩き始めた。

璃>「・・・見せてもらうぞ。」

璃は、ハニーの方を振り返らなかった。

<ハニー>「任せてよ。」

ハニーも璃の方は見なかった。立ち止まらず、門へ歩を進めた。ウテナは後を追おうとしたが、璃がそれをさえぎった。

璃>「・・・君は、今回の決闘場には入れない。」

<ウテナ>「・・・でも!」

ウテナは横を抜けようとしたが、再び璃がそれをさえぎった。

璃>「ダメだ。」

不安に見つめるウテナの視線を追って、璃もハニーの方を振り返った。

璃>「おそらく・・・彼女しか、勝てる者はいないだろう。」

<ウテナ>「えっ・・・?」

二人は、決闘場の門に向かうハニーの後姿を見守った。彼女の足取りは軽く、まるでデートか何かの待ち合わせに急ぐ様にさえ見えていた。

《VIP席の男》

キングサイズのベッドに、暁生と冬芽が気だるそうに横たわっていた。暁生はサイドテーブルに手を伸ばすと、金細工のシガレットケースからタバコを一本取り出す。口にくわえ上体を起こしてライターを取り、火をつけた。暁生の口から、紫色の煙が甘い香りと共に漂う。

<暁生>「今日、彼女にメッセージカードを送っておいたよ。」

<冬芽>「・・・そうですか。」

冬芽は、何気なく天井を見つめていた。汗ばんだ顔に、赤い彼の髪が数本ついている。

<暁生>「今までにない、最高のビッグカードだよ。」

暁生は、楽しそうに笑った。

<冬芽>「彼女が勝ったら・・・どうするのです?」

冬芽は、チラリと暁生の方を見た。暁生は一気にタバコの煙を吸い、鼻から出した。

<暁生>「どちらでもいい。・・・共に倒れてくれてもいい。」

暁生は、ゆっくりと上体をベッドに寝かせた。

<暁生>「・・・どちらにせよ、次の舞台は用意してある。」

<冬芽>「次に・・・やれる者がいるというのですか?」

冬芽は、上体だけ起こし、暁生を見た。暁生はまたタバコの煙を吸い込んで、鼻から出した。

<暁生>「君は・・・どうなのだ?」

冬芽の心を探るように、彼を見た。

<冬芽>「もちろん・・・と言いたい所ですが。」

冬芽は自分の髪を撫でながら、風になびくレースのカーテンのある窓の外を見た。

<冬芽>「全く見当がつきませんよ。・・・俺の手には余るようだ。」

暁生は、冬芽の背中を見つめていた。

<暁生>「・・・そうか。いずれにせよ、次の舞台は用意してある。」

天井に漂い浮いていく、タバコの煙をしばらく目で追った。

<暁生>「さらに素晴らしい舞台をね。フッフッフッ・・・」

《ハニーフラッシュ!》

ハニーは石段を登ると、門の大きな取っ手を握った。するとまるで泉のように取っ手の石板が小さく波打ち、水滴が現れ握る左手の指環の紋章に当たってはじけた。

ゴゴゴゴゴゴ…

地響きを立てながら門が開き、上部のドームが花弁を開くように薔薇の花の形になった。その奥には、搭の周りに付いた長い長い螺旋階段が続いている。

絶対運命黙示録

絶対運命黙示録

出生登録・洗礼名簿・死亡登録

絶対運命黙示録

絶対運命黙示録

わたしの誕生・絶対誕生・黙示録

螺旋階段を上りながら、ハニーは自分のネックにつけたチョーカーのハートに右手の人差し指を当てると、何か唱え事をした。すると指先を当てたハートが強い光を放ち、全身がオレンジの光に包まれた。

闇の砂漠に  燦羽・宇葉

筋のメッキの桃源郷

昼と夜とが逆周り

時のメッキの失楽園

光に包まれたハニーの服は、繊維の一本一本に分かれるかのように千切れ始め、そして光の中を細かい粒子となって彼女の周りを渦巻き始めた。

ソドムの闇

光の闇

彼方の闇

果てなき闇

絶対運命黙示録

絶対運命黙示闇・黙示録

金色の粒子が再びハニーの身体に繊維をつむいでいく。形作られていく衣装は、中世の軍服を思わせるようなものになっていった。詰襟、肩章、フリンジ・・・ジャケットはおヘソが出るショート。パンタロンの裾からすねが覗く、深いスリット。ヒールの高いピンクでエナメルのショートブーツ。ヘアースタイルは、ピンクでワイルドに。やや形が異なるが、ウテナ達が着ている生徒会の服に似ていた。ハニーのは、ピンクをアクセントカラーにしていた。

 

もくし  くしも

しもく  くもし

もしく  しくも

 

もくし  くしも

しもく  くもし

もしく  しくも

 

螺旋階段の頂上に差し掛かり、ゲートから強い日差しと風が吹き付けた。

ブゥオオオ…

 

頭上の青空には、幻の城が浮かんでいる。決闘場の中央には、

 

神崎姫子が立っていた。

 

《奇襲》

決闘広場の中央に立つ姫子。ハニーはゲートを入ってすぐのところで立ち止まり、彼女と向かい合った。二人の間はそれ以上縮まることはなかった。ハニーは樹から渡された件を右手に持ち、ゆったりと床に下げている。姫子は実に嬉しそうな笑みをハニーの方を見つめ、ハニーはその視線を静かに受け止めていた。見詰め合う二人の間に、幾度か風が吹き抜ける。姫子の脇に立っていたアンシーは、ゆっくりとハニーの方まで歩いてきた。30メートルはあるだろうか。アンシーがハニーのところにたどり着くまでにしばらくかかった。しかしその間も、姫子とハニーに流れる緊張感が途切れることはなかった。アンシーはハニーの左胸のホルダーに、ピンクの薔薇を刺した。そして静かに姫子の方へ戻って行った。

バルコニーには、生徒会メンバーが揃い、そしてウテナもいた。アンシーが姫子とハニーの間を行き来する間も、誰一人声も発さず、双眼鏡を手に食い入るようにその様子を見守っていた。特にウテナは、手の平が汗で濡れるほどだった。心臓の鼓動が、自分の耳にまで届くほど高鳴っていた。姫子の能力は、僅かではあるがウテナ自身が体験している。圧倒的なスピード、力。彼女なら、あの離れた間合いからでも一瞬でハニーに近づき、一撃を加えられるかもしれない。いかにハニーがスポーツ万能だとしても、対抗できるようなレベルではないように思えた。ギャラリーの後方には、大きなTVカメラが置かれていた。何か普通の撮影用カメラではないようだった。

ようやくアンシーが姫子のところに戻ってきた。姫子の左胸に、黒の薔薇を刺した。そして両手を胸に合わせ、祈った。

<アンシー>「気高き白薔薇よ・・・」

アンシーの胸から、光が輝き始める。それを見るハニーの表情は、静かであった。

<アンシー>「私の中に眠るディオスの力よ、今こそ示せ・・・」

アンシーが両手をかざし、大きく後ろにのけぞる。彼女の光る胸から、剣の柄が飛び出した。アンシーの身体を受け止め、姫子はその剣の柄を握り締め、引き抜いた。

<姫子&アンシー>「世界を革命する力を!!」

“!!”

アンシーから剣を引き抜き終わるや否や、ハニーは姫子の目前で剣を振りかぶっていた!まるで映像のフィルムが飛んでしまったような、一瞬の出来事だった。

“カァァァーン!”

間一髪、姫子はハニーの剣をかろうじて受けることが出来た。激しい衝撃が、身体を走る!そのまま突っ込むハニーに体当たりされた形となり、間にいたアンシーは吹っ飛ばされ、姫子も5メートルほど後ろまで押されてしまった。「人では出せえぬ衝撃」・・・姫子は、自分の足先まで来るその痺れを味わった。

<姫子>「・・・噂どおりの女!」

彼女は、今までにない喜びを感じていた。そのスピード、力、出鼻を襲う小ずるさ。

 

<西音寺>「ムムッ!あの女だったのか!」

まさに西音寺自身が、剣道場で見たものだった。

この最初の一撃で、ウテナの不安は吹き飛んでしまった。彼女が姫子に対してイメージしていた動きを、ハニーがやってしまったのだった。アンシーより剣が抜かれる間に、奇襲をかけた者は今までに一人もいない。騎士道的には卑怯ともいえるが、そのずるさがハニーの歴戦を物語っているようだった。

二人の力がせめぎ合い、互いの剣が擦れあってギリギリと音を立てている。ハニーは密着しながら、姫子の次の手を待っているようであった。

<姫子>「はぁっ!」

気合を発して、姫子はハニーを突き飛ばした。その勢いに任せて、ハニーは地面すれすれでバック転をし、豹のように体を低くして体勢を立て直した。すでに姫子の突きが、ハニーを追ってきている。それは当たったかに見えたが、フィルムのコマが飛んだようにハニーの像はかき消え、一瞬で横に移動していた。姫子の剣は、決闘場の石畳に突き刺さった。

“ボン!”

その突きは銃撃に等しい。しかし突き刺さったその剣を、姫子は難なく素早く引き抜いて、さらにハニーに襲い掛かった。突かれたかと思ったが、またハニーの像はボケて一瞬で横にかわす。さらに姫子の突きはハニーを追う。ハニーは素早くかわす。そのたびに石畳に穴があき、土煙があがった。

距離をとろうと、ハニーはステップバックをするが、姫子はさらに深く踏み込んでそれを追った。二人は距離を離さず、3メートル程を一気に飛んで決闘場を目まぐるしく移動する。姫子はますます嬉しそうに笑い、眼にもとまらぬ数十発の連続突きを繰り出した。姫子の剣も、ハニーの動きもウテナ達の眼には見えなかったが、どうやらハニーはその全てをかわしたようだった。

<樹璃>「フッ・・・あれでは機関銃(マシンガン)でも当たるまい。」

璃は、ハニーに挑戦した自分を笑った。璃の剣が、彼女の身体に触れるはずもなかったのである。

<ハニー>「ハッ!」

姫子の連続突きをかわしたハニーは、反撃に出た。姫 子に劣らぬ高速突きだ。ハニーの場合、長身の姫子との間合いを一気につめる為、身体ごと飛び込んでいるような突きになる。姫子も剣が刺さるかという瞬間に像がぼやけ、ハニーはその残像の中を突き抜けた。ハニーは片足を着地させるや、すぐに身体の向きを回転させて、姫子に次の一撃を入れる。姫子の像はぼやけ、ハニーはその中を突き抜けた。

ウテナ達には着地するハニーと、かわした後の姫この像が一瞬見えるだけで、その間の攻防は全くわからない。3メートル置き二人は決闘場の中を動き回り、姫子は塀に追い詰められた。

<ハニー>「ハッ!」

ハニーの高速突きは再びかわされ、その剣は石に塀の突き刺さった。

“ボン!”

塀に沿って横にかわした姫子を、さらにハニーの突きが追う。姫子の像がボケて、またハニーの剣は塀に突き刺さった。

“ボン!”

ハニーの突きも銃撃である。塀から脱出した姫子を、ハニーの眼にもとまならぬ数十発の連続突きが追った。一瞬姫子の像が数十にも分かれ、彼女もハニーの連続突きをかわしたのだった。

 

<七実>「なっ・・・何なの、あの二人はっ?!」

七実は双眼鏡目を離して、あきれ返ってしまった。

七実「こ、こんなことは有り得ないわ!こんなこと、人間が出来る訳ないじゃい!なんなのアイツらは?!人間じゃないわ!なんなの、なんなの?!」

眼の前で展開される出来事を、七実は受け入れられず取り乱していた。

冬芽「・・・七実、静かにしなさい。」

七実に対して、冬芽の声は異常に落ち着いていた。眼に当てたオペラグラスを離すこともしなかった。

<七実>「だ、だってお兄様!」

七実は、乱れる思考の救いを兄の冬芽に求めた。

<冬芽>「有り得ないことではない。今、俺達の眼の前に彼女達はいるのだ。有り得ないことであっても、俺達はこの事実を受け入れ、対処しなければならないのだ。」

<七実>「でも・・・いったいどうするというの?どうしようもないわ!」

<樹璃>「今は見守るしかない。・・・彼女を。」

璃の態度も冷静だった。

<ウテナ>“・・・ハニーさん。”

謎の二人の転校生が現れ、その後を追う様に彼女は転校してきた。ウテナは、ハニーがこの学園に来た理由を知ったのだった。

 

《折れた剣》

ハニーは一気に後方に飛び上がった。5メートルはあるであろうか。助走があるわけもなく、ジャンプ台があるわけでもない。常識離れした高速戦闘の中、まるでワイヤーで引かれるかのようにその場からいきなり飛び上がったのだ。姫子もそれを追う様に飛び上がった。ハニーが2回宙返りを石畳に降り立つ頃には、姫子も宙返りをしてその手前に降り立っていた。姫子は笑みを浮かべ、外股で態勢を低くし剣を構えた。フェンシングの構えだった。そのまま動かず、ハニーを誘っているようだった。ハニーは右手に持った剣をグルグルと2回まわして肩をほぐすと、それに応えて軽く姫子の剣に自分の剣を合わせた。

“カーン!”

剣の触れる乾いた音が響く。

と同時に、二人の間に無数の火花が散り始めた。

“ギャギャギャギャギャギャ!!”

ハニーと姫子がフェンシングをしているのだ。互いの剣が擦れ合うたびに、火花が上がるのだ。

“ギャンギャンギャギャギャギャギャィン!
ギャィン!ギャィン!”

二人は5メートルぐらいの間隔で、押したり引いたりの移動を繰り返す。大きなモーションで相手の剣をはらったりする事は出来ない。互いの突きが強烈で、下手にはらうと自分の剣が折れてしまう恐れがあるからだった。

 

<冬芽>「・・・あの女の方が、パワーがあるな。」

<樹璃>「・・・しかし、彼女の方がスピードはある。」

ウテナ達も眼が慣れてきたのか、二人の動きが少しずつ見える様になってきていた。生徒会メンバー達に見え始めた二人の攻防は、一見フェンシングのようでいてフェンシングではないものになっていた。突きを放ち踏み込む最中に、その剣の切っ先を変えて相手の合わせてきた突きの起動をはずす。身体の重心を後方に戻しながら、手だけでもう一度突く。一度踏み込み間に2,3度突きを入れる。人間の機能を超えた、非現実的な動きである。180cmの長身の姫子に対して、ハニーは、リーチの差で不利であった。姫子の深い懐へ入っていかなければならない。そのハンディーを、上回るスピードとテクニックで埋めているのだった。しかし姫子の突き放す重い攻撃を、しのいで自分の射程距離を確保するのは、想像を絶する技であった。

<ハニー>“・・・強い!”

歴戦を繰り返してきたハニーに対して、剣術でこれ程までに肉薄して来た相手はいない。その実力は、今までの相手を上回るだろう。これに匹敵するイメージを持っている相手を、ハニーは一人しか知らない。

<ハニー>「ハッ!」

ハニーは、繰り出された突きに合わせ大きく後方に下がってやり過ごし、姫子の態勢を一瞬崩した。

<姫子>「ムッ?!」

姫子が前方に身体が流れるのを踏みとどまったときには、弧を描いて切りかかるハニーの剣が胸のあたりに迫っていた。

<姫子>「クッ!」

間一髪、胸の薔薇に刃が掛かる手前で姫子は上体をひねって、これをかわした。しかしハニーの鋭い太刀筋は、彼女の上着の胸部を切り裂いた!

“ビッ!”

血は出ていないが、下のブラウスも切り裂いて、姫子の白い肌が見えていた。次の攻撃は避けきれないと、姫子はとっさに大きく後方に飛び下がった。案の定、ハニーの剣は彼女の胸の薔薇を狙って切りかかってきた。胸の薔薇が切り落とされてしまったら、この決闘に姫子は敗れてしまう。右手の平をかぶせて、胸の薔薇をかばった。手は切れなかったが、右腕の袖口に2筋鋭い切り口が突いて裂けてしまった。

“ビビッ!”

さらに追い討ちをかけて、剣を横に振りかぶるハニーが姫子に襲い掛かる!

<ハニー>「タァーッ!」

手首ごとでも、胸の薔薇を切り落としてしまえばハニーの勝ちである。

<姫子>「ムウッ!」

起死回生、姫子は空いている左手を床について後方にブリッジしギリギリハニーの剣をかわした。そのまま前につんのめるハニーを膝を立てて引っ掛け、後転の勢いで後方に投げ飛ばしてしまった!

<ハニー>「しまっ(た)・・・!」

投げ飛ばされて頭から床に激突するのを、ハニーは前転受身をしてしのいだ。しかしそのままの勢いで膝をついて上体を立てると、一瞬姫子に対して背を向けることになってしまった!

<ハニー>「!」

すぐ後ろに振り返ったハニーの頭上から、姫子の面打ちが襲い掛かる!とっさに剣をかざして防ごうとしたが、

“キィーン!”

姫子の剣は、それを折ってしまった!

<ハニー>「!!」

<ウテナ達>「!!」

剣が折れたことに動揺する間もおかず、ハニーは次の攻撃を避ける為、素早く側転をしてその場を離れた。

<ハニー>「ハッ!」

姫子の必殺の一撃は、ハニーが消えた石畳を切り裂いた!

“ビシュン!”

まさにハニーの左肩ごと切り裂くつもりだったのだ。薄い誇りをあげて石畳に突き刺さる剣を、姫子はいとも簡単に引き抜いてしまった。

<姫子>「ムン!」

“シュバン!”

バック転を繰り返して逃げるハニーを、すさまじい勢いで追う!

 

<樹璃>「こ・・・これでは、彼女に勝ち目はない!」

ただでさえ身長差のハンディーのある姫子に対して、素手で立ち向かうのは無謀である。しかも彼女は、ハニーを殺傷することにためらいがない。

<ウテナ>「ハニーさん、危ない!逃げて!」

ウテナは、ハニーの死を予感した。

姫子の駿足は、床を回転しているハニーを簡単に塀の隅まで追い詰めようとしていた。

<ハニー>「反重力ブーツ!」

ハニーの履くカカトの高いブーツが、輝いた。バック転の勢いのまま、振り下ろす足で彼女は塀の壁を蹴った。すると、一気に決闘場の反対側の塀まで飛び上がった!飛距離100メートルの大ジャンプである!

<ウテナ達>「!!」

きびすを返して、姫子は反対側へ飛んだハニーを追う!反対側に降り立ったハニーも、素手のまま姫子に向かって走り出した!

 

<樹璃>「ば、馬鹿な!素手であの女とやるつもりか?!」

ハニーがジャケットのハイカラーについたハートの飾りに指で触れて、右手を前にかざした。

<ハニー>「シルバーフルーレ!」

すると光とともに剣が手に現れたのだった。

<樹璃>「け・・・剣が?!」

<ウテナ>「・・・!!」

璃が剣を手渡した時の、ハニーの変な反応はこの為だったのだ。彼女は、すでに自分の剣を持っていたのだ。

<ハニー>「イャアアア〜ッ!」

ハニーは、自分の剣を大きく振りかぶって姫子に飛び掛っていく。姫子は反射的に剣で受けることを避けて、上体を避けつつはらった。

“カーン!”

さらに弧を描いたハニーの高速斬りが、姫子を襲う。先ほどのフェンシングの動きに代わり、今度は剣道のような展開である。

“キン!キン!キン!キン!キン!キン!”

大振りなハニーの斬りに対して、姫子は受けに回っていた。展開が変わったのには理由がある。

<姫子>「ムン!」

姫子はハニーの面打ちに合わせて上からそれを押さえて後方に払い、相手を引き付けると背中を向けて一回転して身体をひねった。その回転にあわせて右足が繰り出される!姫子奇襲のローリングソバットであった。しかしハニーはその動きを読んでいて、右足の膝を曲げて垂直に受けてその蹴りを防いだ。

<姫子>「!」

姫子の重爆キックで、大きく後方に飛ばされそうになるのを、ハニーは側転飛びで勢いを散らし、反対側に3回転して態勢を直した。

 

<姫子>「フッフッフッ・・・ハッ!ハッ!ハッ!」

姫子は、その場でいきなり笑い始めた。

<姫子>「・・・本当に手強い女ね。誰も勝てなかった訳だわ。」

姫子は、自分の顔にかかった髪を後ろに大きく撫で付けた。実に楽しそうであった。

<ハニー>「フッフッ・・・おかげさまでね。」

ハニーもニッコリ笑って応えた。

<姫子>「しかしここまでだ。私が始めてお前に勝つ。」

姫子は、再びフェンシングの構えを取った。

<姫子>「・・・あの方よりも先に。」

ハニーの顔から、笑みが消えた。

 

◎次回 第12話『情念の蔦』

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